技術開発において、まぐれを期待してはならない。「そんなことは当たり前」と皆さんは言うかもしれないが、まぐれ頼みになっているケースが相当ある。ノーベル賞クラスの大発見が偶然や手違いで達成されたという話を聞くことがあるが、それはまぐれのように見えても決してまぐれではない。たとえ最後の一押しが偶然であったとしても、そこに至るまでには卓越した研究コンセプトがあり、さらに絶え間ない努力と入念な準備によって支えられていることがほとんどである。
特にイノベーションでコンセプトが重要になることは、これまで述べてきた通りだ。ここでいうコンセプトとは、「どんな絶対価値をどのような方法で実現するのかについての、核となるイメージ」のことである。
新車開発でもコンセプトは最も重要だが、未踏の領域に踏み込むイノベーションではそれにも増して重要となる。コンセプトがしっかり固まっていないと、すべきことを取捨選択する基準があいまいになり、優先順位も決められない。その結果、すべきことが広大な技術領域にわたって際限なく増えていき、開発リソースが分散してしまう。これが、冒頭で指摘したまぐれ頼みの状態だ。ところが実際の技術開発では、まぐれ当たりは決して起こらない。
コンセプトが固まるとありたい姿が明確になり、A00(本質的な目標)が決まってくる。漠然としているイノベーションの枠組みを、1歩分だけ具体化できる。この1歩を踏み誤ると、後で大変なことになるので、最初のコンセプトがとても大切になるわけだ。
コンセプトを明確にする場として、3日3晩かけて議論する「ワイガヤ」が大きく貢献することを前回と前々回で紹介した。今回のテーマである「三現主義」は、ワイガヤとは全く異なるフェーズからコンセプトを明確にすることに役立つ、強力な仕掛けなのである(図)。
〔以下、日経ものづくり2010年10月号に掲載〕
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)