日本で売るクルマは日本で造る。そうした日本の自動車メーカーの常識は、過去のものになりつつある。日産自動車の新型小型車「マーチ」が時代の変化を強く印象付けた(図)。
同社は、これまでマーチを先進国である日本と英国で主に生産していた。だが、新型は新興国のみで生産する。2010年3月以降、タイを皮切りにインド、中国と相次いで生産を開始。現在はメキシコで量産の準備を進めている。新興国での生産は世界的な流れだが、新型マーチの場合は日本ですら生産しない。従って、国内で販売するクルマはすべてタイからの輸入となる。
新型マーチは、日産自動車の世界戦略車だ。その生産拠点から日本が外れたことが、注目されている。
先進国から新興国に量産拠点を移す最大の目的は、原価低減だ。実際、新型マーチの日本での主力モデル(12X)は、アイドリング・ストップ機構を搭載してクラス最高の26km/L(10・15モード)の燃費を実現しながら、販売価格を競合車と同等に抑えている。
ただし、原価低減は単純に新興国で生産するだけでは実現できない。新興国のコストメリットを生かしたり、現地での安価な部品の調達率を上げたりすることによる原価低減は確かに大きい。しかし、それ以上の効果を上げているのが、設計の共通化など開発・設計段階の取り組みなのである。
新型マーチの開発を統括した同社Nissan PV第一製品開発本部車両開発主幹(Vプラットフォーム)の小林毅氏は、「設計の共通化と造りやすさを追求したからこそ、原価低減を実現できた。加えて、新興国でのスムーズな量産も可能になった」と強調する。
〔以下、日経ものづくり2010年10月号に掲載〕