人や橋梁の振動に室内の照明光,クルマの廃熱,放送用の電波など…。身の回りのエネルギーから得られる電力を生かす「エネルギー・ハーベスティング」。そこから得られる電力は非常に小さいものの,1次電池が不要になるという利便性に,世界中が熱い視線を送り始めた。周辺部品の特性が向上したことで適用可能な用途が増えている。高効率で低消費電力な無線ICが,導入拡大を牽引する。

発電量が自己消費量を上回った

 振動や光,熱,電磁波など,身の回りの小さなエネルギーを“収穫”して活用する技術「エネルギー・ハーベスティング」。普段は捨てられてしまうような,ごくわずかなエネルギーを有効活用しようというこのコンセプトに今,大きな注目が集まっている。

 「エネルギー・ハーベスティング関連機器の市場規模は,2010年の6億500万米ドルから2020年には44億米ドルまで広がる」(英 IDTechEx Ltd.)。「2009年の市場規模は7950万米ドル。これが年率73.6%で成長し,2014年には12億5400万米ドルに達する」(米 Innovative Research and Products, Inc.)──。

最大のウリは「電池レス」

 エネルギー・ハーベスティングは別名「環境発電」とも呼ばれ,さまざまな場所で発電できるという利点がある。ただその一方,得られる電力は非常に小さい。1台の発電デバイス当たりの発電量は,μWオーダーにとどまるものが大半を占める。「スマートフォンに取り付けたら充電が要らなくなる」,というほどの大きな電力が得られるわけではない。

 微小な電力しか得られないにもかかわらず市場拡大に熱い期待が集まっているのは,その“高い利便性”にある。エネルギー・ハーベスティングの最大のウリは,この仕組みを導入した機器では,1次電池の交換や配線,メンテナンスといった手間が不要になることだ。いわば,「ローパワー」ではなく,「ノーパワー」にできるということである。

 こうした利便性を享受しようと,じわじわとその導入先は広がりつつある。

『日経エレクトロニクス』2010年9月6日号より一部掲載

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