「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 前回(2010年8月号)の宿題は、一定の値に「サチる」式を作ることでした。皆さん、分かりましたか?

 このサチる現象って、世の中にはたくさんあります。有名なマルサスの「人口論」も、人口は将来サチりますと言った。人口はずっと伸び続けるから危ないとそれまでいわれていたのを、「そうじゃない、人口とか経済成長は将来サチるはずだ」と。そのときに彼が使った式なんです。

 うーん、難しいかもしれないですね。では、ヒントをあげましょう。途中まではサチるのを忘れて、イケイケでいい。そうしないと伸びませんから。で、終わりの方で抑えて一定にしたい。サチるというのは、変化が…。

(生徒の1人が恐る恐る手を挙げる)
「ゼロになること?」

 そう、ゼロですね。終わりの方では微分してゼロにしたいわけです。…と考えていくと見えてくるはずなんですが、さ、皆さんどうでしょうか。とにかくこれができたら、式を立てる感覚は十分。今までの話は全部分かったことになります。式の中にUC-Uが出てくるというヒントは、前回、出しました。

(ここで別の生徒が発言する)
「組み合わせになるんですか?」

 そう、組み合わせ。逆に言えば、組み合わせじゃないと無理。1個ポンっていうんじゃできない。

 あっ、余計分からない? 確かにちょっと難しいと思います。できたら私、びっくりしちゃいます。ちなみに、高校生の西成君はできませんでした(笑)。

 答えはこうです。Uの変化分dU/dtはUとC-Uの掛け算。全体にa倍などと、定数を掛けておきます。これでOK。

〔以下、日経ものづくり2010年9月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。