「勝つ設計」は、日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ、競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し、再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 前回(2010年8月号)はページが少なく、「なんだ、概念だけか」と、フラストレーションがたまった読者もいたに違いない。そんな読者の方にもご満足いただけるよう、今回からは、私が実践してきた「佐藤式テアダウン」の神髄をとことん紹介していく。

 ところで、「佐藤式」とあえて私の名を付けたのには、理由がある。実は、この種の手法はどんどんと改良、いや改悪(手抜き)され、今では限りなく分解展示に近づいている。一般にはそれを「テアダウン」と称すが、私には抵抗がある。テアダウンの神髄は分解展示ではないと考えるからだ。そこで、一般的なテアダウンと誤解されないように、私が実践するテアダウンにはあえて佐藤式と名付けたのである。

 佐藤式テアダウンは、テアダウン発祥の地、米国で高い評価を受けた。英文でつづった拙著『VA Tear Down』は、日本人で初めてSAVE(米VE協会)の「Paper of the Year」を受賞。以降、私のセミナーは何年もの間、盛況続きだった。その理由を突き詰めて考えてみれば、佐藤式テアダウンは分解展示ではなく比較分析に重きを置くため、一般的なテアダウンよりもずっと奥行きがあって、何より、具体的なProposal(提案≒答え)にたどり着きやすい。つまり、より実践的な手法であるからだ。

 そんな佐藤式テアダウンの世界へ、読者の皆様をご招待しよう。まずは、佐藤式テアダウンを構成する6つのテアダウンについて述べる。最初にテーマ別の体系を理解していただき、その後、テアダウンの進め方やマネジメントの仕方について解説する。

〔以下、日経ものづくり2010年9月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に、いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し、同社の原価改善を推し進める。その間に、いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し、日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certifi ed Value Specialist)に認定、1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど、日本におけるVE、テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し、VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も、ものづくりの現場を回り続ける。