電気自動車(EV)の新たな駆動源として、ホイールの内側に収まるインホイールモータが期待されている。このモータ向けに、低コストでコンパクトなサイクロイド減速機を開発したのが、サイベックコーポレーション(本社長野県塩尻市)だ。

 開発を支えたのは、「板鍛造」と呼ばれる加工技術である。プレス機だけでサイクロイド歯車を高精度に成形できる。駆動系の減速機に使えるほど大きくて厚い歯車を加工できるのは同社だけ。現行では切削で造るしかないためコストが高いこの歯車を板鍛造に置き換えることで、加工コストが1/10になる。サイクロイド歯車に限らず、低コスト化のために切削品をプレス品に切り替えたいという要求に板鍛造が応える。

遊星歯車機構よりもコンパクト

 サイクロイド減速機は、その名の通り、歯形がサイクロイド曲線を描くサイクロイド歯車をかみ合わせて造る(図)。一般的なインボリュート歯車と比較すると、サイクロイド歯車は歯面間の滑りが一定で摩擦損失が小さいため、減速機効率が良い。歯元の幅を広くできることから強度や剛性が高く、伝達トルクに優れる。従って、減速比を大きくできる。加えて、シンプルな構成だから、部品点数が少ない。

 これらの特徴から、サイクロイド減速機は現行の遊星歯車機構よりも小さく軽くできる。例えば、同じ減速比の遊星歯車機構と比較すると、厚さは半分になり、質量と部品点数は1/2以下に減る。1充電当たりの走行距離(1充電航続距離)を延ばし、かつレイアウトの自由度を高める必要がある電気自動車にうってつけだ。現行のエンジン車やハイブリッド車で依然として大きい小型・軽量化の声にも十分応え得る。

〔以下、日経ものづくり2010年9月号に掲載〕