プリント基板上の配線やコネクタを無線化する技術開発が活発化している。これまで研究開発が盛んだった積層チップ間の無線通信技術とは異なり,通信距離を数mm~数cmに延ばしている点が特徴である。こうした技術によって機器内の配線本数を減らすことができれば,実装形態の簡素化による小型化やコスト削減が可能になる。さらに,接続信頼性や機器設計の自由度も向上する。

無線で実装を簡素に

 「無線で半導体チップ同士をつなげれば,プリント基板の配線は電源配線だけになる」(ソニー コアデバイス開発本部 高周波伝送・映像システム開発部門 ミリ波システム開発部 統括部長の川崎研一氏)。「機器の中はコネクタだらけだ。そこを無線化したい」(ルネサス エレクトロニクス 技術開発本部 先行研究統括部 先行研究第一部長の水野正之氏)。「メモリ・カードから電極の露出部をなくせば,完全密封形にできる」(慶応義塾大学 理工学部 電子工学科 教授の黒田忠広氏)──。

 半導体チップ間の接続を無線化することで,実装形態の簡略化や付加価値の向上を目指す技術開発が活発化している。これまで半導体チップ間の無線通信というと,パッケージ内での積層チップ間通信を指すことが多かった。その場合,通信距離は20~30μmと短い。これに対し,今回の技術は通信距離が数mm~数cmと長く,プリント基板の配線やコネクタ,ケーブルなど,機器内の多くの配線を無線に置き換えられる可能性を持つ。このため,機器設計に与える影響が大きい。

プリント基板を1~2層に

 今回の無線化技術が機器メーカーに与える影響は,大きく三つある。第1に,プリント基板やパッケージ基板(インターポーザ)の構造を簡素にできるため,機器の小型化や薄型化,コスト低減が可能になる。第2に,コネクタやケーブルといった着脱/可動部の接続信頼性を向上できる。第3に,機器設計の自由度を高められる。実装形態が簡素化されるためだ。

『日経エレクトロニクス』2010年8月9日号より一部掲載

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