日本と世界の国々で意味が大きく異なる言葉がありますが、「サービス」もその1つです。日本人にとって、それは基本的に無料。「何をすれば相手から喜ばれるだろうか」と考え、相手によってさりげなく内容を変える「十人十色」のサービスが最高のサービスということになっています。
「5つ星」の評価を受けた欧州のある高級ホテルでは、有名な日本のサッカー選手が着くと、その選手が好む映画のテーマ曲が生演奏されるという話があります。これを聞くと「最高峰のホテルのサービスは違う」「海外でもスター扱いなんて、その選手はすごい」などと思う日本人がいるかもしれません。しかし、それは無邪気な勘違いというものです。
実際には、そのサッカー選手が初めて宿泊した際に、ホテルの従業員や演奏者の人にチップを渡して映画のテーマ曲を演奏してもらった。それを繰り返すうちに彼らが名前と顔を覚え、そのサッカー選手がホテルにやって来るたびに、条件反射のようにテーマ曲を演奏するようになった、というのが真相です。
決して無料のサービスではなく、気前よくチップを弾んでもらった代わりに、好みの音楽を流しているのです。もちろん、このきめの細かい対応で満足してもらい、次の機会もまたこのホテルに宿泊してほしいという気持ちも込められています。
一方のサッカー選手も、単に好きな音楽を聴く満足を得るためだけにチップを弾んでいるのではないはずです。きっと、こうしたサービスを利用することで、同伴するスポーツ業界の人間やマスコミ関係者などに「プロ選手としての価値の高さ」を誇示できると考えていることでしょう。ファンに夢やあこがれを提供しなければならないプロスポーツの世界で生きていく上では、賢明であり、当然の行為とも言えます。
つまり海外では、サービスはそれ相応の対価を求める行為、すなわち、「一種のビジネス」と言い換えることができるのです。この考え方は、中国においても変わりません。
〔以下、日経ものづくり2010年8月号に掲載〕
技術者・海外進出コンサルタント