「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 前回(2010年7月号)の授業で、物事の将来を予測するのにも、微分方程式がパワフルな武器になるとお話ししました。かなり難しいことを短時間で教えてしまいましたので、今回は本題に入る前に少し前回のおさらいをしておきましょう。

 まず、こんな座標系を思い浮かべてください。縦軸は、将来を知りたい事象の状態を表すU、横軸を時間tと置きます(下掲の(1)を参照)。将来を予測するということは、この座標系にいくつもの点をプロットし、線を描くことでもありますよね?線を描くためには、現在(t)と、そのちょっと先の将来(tdt)の間に、どんな変化が起こるかを考えます。ttdtの間で生じた変化は、線の傾きで表現できる。つまり、微分方程式で表せると勉強しました。

 科学者が予測をするときも、この方法を用います。将来を正確に「予言」するために、そりゃもう必死に式を立てるわけです(笑)。実は、これが今回の本題。科学者と同じように、皆さんにも式を立てていただきます。

 「そんなことを言われても、急にできっこない」と皆さんは思われるでしょう。でも、常日ごろ、式をイメージでとらえる訓練をしていれば、予想以上に簡単に式を立てられます。前回、私は「dU/dtUのイメージは、モテ始めると輪をかけてモテるやつ」とか、「dU/dtU2のイメージは、ある時に『世界征服』を果たす大スター」などとお話ししました(下掲の(2)と(3)を参照)。そんなお話をしたのは、イメージをとらえる感覚をつかんでいただきたかったから。どんな教科書にも書いていない「西成秘伝の技」ですので、本連載を読みながら習得していっていただければと思います。

 では、いよいよ式を立てることにしましょう。

〔以下、日経ものづくり2010年8月号に掲載〕

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西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、ドイツUniversity of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。