2008年7月30日の7時40分すぎ、新東京国際空港(成田空港)の誘導路を走行中のベトナム航空HVN950便(ボーイング777-200型VN-A146)の右エンジンから薄い白煙が立ち上った。いったんは消火したとして所定の駐機場所に移動したが、しばらくすると火の手も上がった。ただし、火災は待機していた消防車両によってすぐに消し止められた。

 火の手が上がったのは既に乗客264人と乗員13人の全員が降りた後だったため、負傷者も出ず、HVN950便の右エンジンを小破しただけで済んだ(図)。国土交通省の運輸安全委員会が2010年4月に公表した報告書によると、成田空港でベトナム航空の整備を請け負っている整備士は、事故後の調査に対して「これだけ燃えていたのに、けが人がなかったことにほっとした」と述懐している。

 駐機場所に消防車両が待機していたのは、誘導路を走行中に既に異常の兆候が認められていたからだ。着陸して誘導路に入ると間もなく、操縦室にある赤色の「FIRE ENGINE RIGHT」(右エンジン火災)の警報が点灯し、警報音が鳴った。操縦室からは煙も炎も確認できなかったが、操縦士は定められた手順に従って右エンジンを停止し、2本ある消火ボトルのうち1本を作動させた。その直後に警報が消えたため、操縦士は「火災は消火した」と判断して、管制塔と相談した上で所定の駐機場所まで走行した。

 乗客を降機させている最中も、操縦席からは異常は認められなかったが、実際には、乗客が降機し終わるタイミングではっきりと白煙は上がっていたようだ。

〔以下,日経ものづくり2010年8月号に掲載〕

図●HVN950便の右エンジンの消火作業
火の手が上がったが、待機していた消防車両が消火泡を散布して鎮火した。写真:運輸安全委員会