ターボチャージャで過給する目的が「出力」から「燃費」に移った。エンジンの排気量を大幅に小さく(ダウンサイジング)し、その分を過給で補うエンジンが海外メーカーで広がってきている。排気量が小さい分、エンジン本体を小さくでき、摩擦抵抗を減らせる。日本勢はなぜか音なし。追いつくための方策はあるのか。

Part 1:欧州の熱狂、日本の沈黙

排気量落とし摩擦抵抗を減らす 長期戦略か、当面の品揃えか

排気量を20~50%減らし、代わりにターボチャージャでしっかり過給するエンジン。燃費ターボエンジン、またはダウンサイジングエンジンと呼ばれる。狙いはあくまでも燃費。出力を狙った一昔前のターボ過給エンジンとは大きく違う。一部のメーカーが4気筒車のすべてに燃費ターボ仕様を用意するほど、欧州では浸透した。今のところ何の動きもない日本。このまま手を拱(こまぬ)いていていいのか。

 排気量がたった1.2Lのエンジンで車体重量1270kgのドイツVolkswagen社「ゴルフ」を走らせる。たった1.6Lのエンジンで最大1680kgのフランスCitroen社「C5」を走らせる。1.8Lのエンジンで最大1810kgのドイツDaimler社「メルセデスベンツEクラス」を走らせる。排気量と車体重量が不釣合いなクルマが続々と登場してきた。どれも1t当たり約1Lである。これらは排気量を減らし、その分をターボチャージャで補って燃費を良くする「燃費ターボエンジン」。欧州を中心に続々と現れている。

以下、『日経Automotive Technology』2010年9月号に掲載

Part 2:燃費ターボエンジン比較

専用に設計したVolkswagen 派生エンジンとしてのDaimler、Citroen

1気筒当たり2弁を採用し、燃費ターボ専用としたVolkswagen社のエンジン。気筒数を減らすことによって軽くしたDaimler社のエンジン。燃費ターボ専用でなく、使いまわしの効くCitroen社のエンジン。市販エンジンの次を提案するMahle社のエンジン。燃費ターボエンジンは各社の事情によってさまざまだ。

 今、市販の燃費ターボエンジンとして最も過激なのはドイツVolkswagen社が「ゴルフTSI Trendline」、続いて「ポロTSI Trendline」「同Highline」に搭載した1.2Lエンジンだろう(図1)。今までに同社が商品化してきた4種類のエンジンから一歩前進し、燃費ターボ専用エンジンとしての性格を強めた。
 先代「ゴルフE」に積んでいた1.6Lの自然吸気エンジンに比べ、トルクは1500rpmで40%、2500rpmで27.3%増加した。出力は同じ77kWである。価格は257万円で、ゴルフEの約240万円から17万円値上げした。

以下、『日経Automotive Technology』2010年9月号に掲載
図1 「ゴルフTSI Trendline」のエンジン
写真下が前。タービンハウジング遮熱板の右にコンプレッサがのぞいている。コンプレッサからの空気はエンジンをまたいで後方の吸気マニホールドに向かう。

Part 3:熱効率を高める

耐熱材料の開発が後押し 将来は希薄燃焼でダウンサイジング

燃費ターボでは、排気系の部品を守るために余分な燃料を噴くことは許されない。排気温度はどうしても上がるから、排気系の金属部品が高温に耐えなくてはいけない。オーステナイト系の耐熱鋳鋼、鋼板などを適材適所で選び、設計する必要がある。ダウンサイジングを進めるとコンプレッサの温度が上がり、それに耐える素材も必要になる。将来は希薄燃焼と組み合わせれば、燃費をさらに向上できる可能性がある。

 出力ターボの熱効率を下げる原因の一つが排気系の部品を冷やすために噴く燃料。図示熱効率の計算には出てこないが、実際の熱効率を左右する。
 出力ターボの時代は排気系に鋳鉄を使うのが普通だった。ニレジスト、インコネルなど、高価なNi系の耐熱材を使うこともあるが、主流はあくまでも鋳鉄であった。「燃料冷却」をしない燃費ターボでは排気温度が上がるため、鋳鉄の上を行く鋳鋼が欲しい。
 鋳鋼は鋳鉄より耐熱性が高い。Cの量が鋳鋼の0.1~0.6%に対して、鋳鉄は3%と多めだからだ。しかも鋳鉄は凝固したときに組織内に黒鉛が残る。鋼や鉄にとって黒鉛は空洞のようなものだから、強さが落ちる。その代わり、鋳鋼は融点が高く、鋳造が難しい。

以下、『日経Automotive Technology』2010年9月号に掲載

Part 4:応答性を上げる

回転物を徹底的に軽く オーバーラップ広げる提案もる

燃費ターボは小型・軽量なので応答性は出力ターボよりずっと良い。それでも自然吸気には勝てないので、応答性を上げる努力は止められない。さまざまな方法でロータを軽くする技術の開発が進む。空気流路を短くするためにインタークーラを吸気マニホールドに組み込む工夫もある常識とは逆に低回転でオーバーラップを大きくし、“応答感”を高める提案も飛び出した。

 ターボチャージャのタービン、コンプレッサのロータには当然質量があり、慣性モーメントがある。ある回転数まで加速するのに一定の時間がかかり、応答性を下げる。余計なものが何もない自然吸気エンジンには勝てない。
  Volkswagen社の1.2Lエンジン、Daimler社の1.8Lエンジンの両燃費ターボエンジンに載っているのが、IHIのターボチャージャ。実際にはドイツDaimler社と合弁で設立したドイツIHI ChargingSystems International社のドイツとイタリアにある工場で生産し、それぞれのメーカーに納める。
 IHIはこれらのターボチャージャのタービンに、斜流タービンを採用して応答性を高めた。軸を含む断面図で見て、軸と垂直でない方向から排ガスを流し込むのが斜流タービンだ(図2)。羽根が、外側を切り取ったような形をしているため、その分だけ慣性モーメントを小さくできる。一般のタービンに対して慣性モーメントが約10%小さい。

以下、『日経Automotive Technology』2010年9月号に掲載
図2 IHI製のターボチャージャ
排ガスはタービンに対して斜めに入る(赤の矢印)。普通は軸に向けて垂直に入る(白の矢印)。