「技術者のための最新中国事典」は、中国に詳しいコンサルタントであり、現役の技術者でもある遠藤健治氏が、最新の中国事情を伝えるコラムです。変化が激しい中国のものづくりや市場、人々の文化や習慣など、日本企業のビジネスチャンスにつながり得る「今」の情報を素早くとらえ、独自の分析や対策などのヒントを技術者向けに提供します。

 ホンダの中国工場が操業を停止した──。2010年5月末に中国から飛び込んできた1本のニュースが、中国に工場を構える日本企業に衝撃を与えました。同月17日に、広東省仏山市にある変速機工場において従業員によるストライキが発生(図)。1週間後に生産ラインが止まり、この工場から変速機の供給を受けていた4つの完成車工場が操業停止に陥りました。

 ストライキを起こした変速機工場の従業員の要求は、ズバリ、賃上げ。完成車工場と比較した賃金の低さに不満を募らせての行動だというのです。地方政府の仲介を受けながらも労使間の協議は難航し、ホンダは約2割の賃上げを提案して何とかストライキを終結させました。しかし、完成車工場の生産ラインは約2週間も停止。同社の年間生産台数から逆算すると、これによる生産台数の遅れは、ざっと3万台になるとも言われています。

〔以下、日経ものづくり2010年7月号に掲載〕

図●ホンダと系列部品メーカーで起きた従業員のストライキとその経緯
ストライキを起こした変速機工場の従業員に対し、ホンダ側は2割の賃上げを提示した。2010年6月11日現在。
[画像のクリックで拡大表示]

遠藤健治(えんどう・けんじ)
技術者・海外進出コンサルタント
日本と中国を含めたアジアのものづくりに詳しい技術者で、海外進出コンサルタント。京セラ入社後、開発部、生産技術部、品質保証部に勤務。中国工場における製造業務指導が評価され、同社を退社して精密機器メーカーの中国工場にて製造部長や品質部長を務める。現在、業務用機器メーカーの技術者として日本と中国をまたにかけて活躍中。著書に『日系中国工場製造部長奮闘記』『中国低価格部品調達記』(共に日経BP社)などがある。