「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 数理科学が、使い方によっては実社会で役に立つパワフルな武器に成り得ること。そして、それがビタッとはまる分野の1つに最適化・効率化があることを第1~3時限でお話ししました。実はもう1つ、数理科学の力を存分に発揮できる分野があるんです。それが「予測」です。

 世の中にある事象の将来を完璧に予測する──。これは、科学者たちの究極の目標と言っていいかもしれません。最適化・効率化では、時間を止めた「その時」だけを考慮する問題が多いのですが、予測では時間という要素が入ります。時間は限りなく続くもの。だから、難しいんです。

 それでも科学者たちは、手の中の武器を駆使して予測を試みます。ほら、よく「ここで震度○の地震が起きると、どこどこで火事が発生する可能性が…」などと言う科学者がいるでしょう。当たらない場合も結構、あるんですが(笑)。あれ、どうやって予測していると思いますか?

 今回以降は、予測において、科学者たちがどのような武器を持っていて、それらをどう使っているかについて学んでいきます。その中身を知れば、さまざまな実社会の問題への活用も十分に可能ですし、「科学者たちが予測を外すのはどうしてか」なんてのも分かっちゃいます。考え方、一番大事なエッセンスだけをお話ししますので、「難しいのは苦手」という人も怖がらなくて大丈夫。さぁ、科学者たちが持つ「水晶玉」をのぞいてみましょう!

〔以下、日経ものづくり2010年7月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、ドイツのUniversity of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。