クリスマスが間近に迫った1972年12月。私は上司の佐藤重廣氏から「GM(米General Motors)社のコンサルタントに呼ばれたので、君も一緒に行かないか」と誘われた。GM社のコンサルタントとは、当時のいすゞ自動車に駐在していたEugene K. Kelly氏とWilliam A. Woodcock氏の2人。彼らの部屋には、我々いすゞ自動車の2Lエンジンのシリンダヘッドと、同じくトヨタ自動車とホンダのシリンダヘッドが置いてあった。
それを前に、私たちは我が製品とライバルメーカーの製品の違いについての説明を受けることになった。コンサルタントいわく、「3社のシリンダヘッドはそれぞれ、形状や水路の構成、加工精度などが違う。中でも材質は、ホンダ製のシリンダヘッドがアルミダイカストであるのに対し、いすゞ自動車とトヨタ自動車のそれは鋳鉄と、異なっている」。こうした指摘に、私たちは自社製品に改善の余地があることをそこかしこに感じると同時に、GM社が実践していたこの「Tear Down」と呼ぶ手法にインスパイアされた。
コンサルタントの部屋を後にした2人の佐藤が、このTear Downなる手法で改善を進めようと話し合ったのは言うまでもない。このたった30分、されど濃密な30分から、日本の製造業における「テアダウン」は幕を開けていくのである。
〔以下、日経ものづくり2010年7月号に掲載〕
VPM技術研究所 所長