中国政府が推進する次世代移動通信方式「TD-LTE」が,世界で普及する兆しを見せ始めた。背景には,巨大な中国市場に参入したいという企業の思惑がある。NTTドコモらが推進する次世代規格との親和性が高いことも,普及を後押しする。日本企業はTD-LTEの動向をにらみつつ製品開発をしていく必要がありそうだ。

世界に広がり始めたTD-LTE

 中国,インド,米国,欧州そして日本──。世界の携帯電話サービス事業者が,雪崩を打って「TD-LTE」と呼ぶ通信方式の採用に動き始めた(図)。TD-LTEは次世代の移動通信方式の一種で,NTTドコモが2010年12月に開始予定の「LTE(long term evolution)」の兄弟規格に相当する。一般的なLTEが,上り方向(携帯電話機から基地局)と下り方向(基地局から携帯電話機)の通信に異なる周波数チャネルを使う周波数分割多重(FDD:frequency division duplexing)方式であるのに対し,TD-LTEでは上り方向と下り方向に同一の周波数チャネルを使う時分割多重(TDD:time division duplexing)方式を利用する。

 従来,移動通信サービスは,FDDを用いた方式が常に主流だった。上り方向と下り方向にそれぞれ専用の周波数チャネルを割り当てるFDD方式の方が,高速移動時の伝送品質を安定化させやすい,といった理由があるためである。

 このためTD-LTEは,中国だけで利用されるにとどまると思われてきた。TD-LTEによる通信サービスの提供を積極的に表明してきたのは,中国China Mobile Communications Corp.(中国移動通信)だけだったからだ。ところが2010年に入ってから,急速に風向きが変わり始めた。FDD方式のLTE(以下,FDD LTE)に加えて,TD-LTEを積極的に使う動きが,中国以外の国からも出てきたのだ。

Clearwire社の変節が発端

 TD-LTEへの流れを特に印象付けたのが,米国でIEEE802.16eを使ったモバイルWiMAXサービスを展開中の米Clearwire Corp.の動きだ。同社は2010年3月,LTEの規格を策定する団体「3GPP」に対し,同社が保有する周波数帯域の2496M~2690MHzを,TD-LTEでも利用できるように申請したのだ。

『日経エレクトロニクス』2010年6月28日号より一部掲載

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