第1部<総論>
巨大生産能力と最先端技術で
新興国向けのLSI生産基地へ

ファウンドリー企業が,圧倒的な生産能力により,世界のLSI生産を一手に引き受け始めている。LSI生産とともにかき集めたノウハウや知見を生かし,技術力でも世界の先頭集団に躍り出る。機器メーカーは「メガメジャー」化しつつあるファウンドリー企業とどう付き合うべきなのか。

市場が変わり,主役も変わる

 「このまま日本の大手半導体メーカーと一緒に,デジタル・カメラなどに搭載する心臓部(SoC:system on a chip)を開発していると,いつか行き詰まるかもしれない」。オリンパス 常務執行役員 デジタル技術開発本部長の栗林正雄氏は,LSI開発に関する危機感をあらわにする(図)。

 背景には,日本の大手半導体メーカーが,自社の生産規模を抑える「ファブライト」化へと舵を切っていることがある。製造技術の微細化とともに急増する設備投資や研究開発費を抑え,収益を改善するためだ。

 日本の大手半導体メーカーはこれまで,設計と製造を自前で行う,垂直統合型体制を採ってきた。こうした企業は,IDM(integrated device manufacturer:IDM)と呼ばれる。最近,この体制が揺らいでいる。富士通セミコンダクターは, 40nm世代以降のLSIの生産を台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.,Ltd.(TSMC)に委託するようにした。東芝も「IDMを続けるのは無理がある。ファブライト化をしっかり進めていく」(同社 代表執行役社長の佐々木則夫氏)と,同じ方向を目指す。

 ファブライト化は,日本の半導体メーカーにとっては,投資負担が減るというメリットがあるのは確かだ。一方,機器メーカーにとっては,「不安だらけ」(国内デジタル民生機器メーカー)である。その最大の理由は,日本のIDMが最先端の半導体技術を自ら保有できなくなることである。

 エレクトロニクス機器にとって,SoCは機器の付加価値を握る最重要部品の一つだ。だからこそ,「チップ面積を小さくし,消費電力を低くするために,最先端の半導体製造技術を利用している」(オリンパスの栗林氏)わけだ。機器設計者は,数年後の半導体技術の進化を見越し,それを前提にして機器を開発する。それ故,最先端の半導体製造技術を有する半導体メーカーと密接な関係を構築し,LSI開発のパートナーに指名する。

 最先端の半導体技術を求める機器メーカーにとって,その技術を自ら有することができなくなりつつある国内半導体メーカーに頼っていて大丈夫かというのが,冒頭のオリンパスの懸念である。

『日経エレクトロニクス』2010年6月14日号より一部掲載

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第2部<チップ製造>
微細化はまだまだ続く
五つの指標で3社を比較

スマートフォンやタブレット端末など,機器の進化は今後も半導体技術の微細化を前提にする。心臓部を担う論理LSIの受託生産を巡り,ファウンドリー企業による競争が激化し始めた。どのファウンドリー企業を選ぶか,五つの指標で比較した。

3社がファウンドリー市場の覇権を競う

 「この先も微細化を追求する」(米Xilinx, Inc.)。「顧客は予想以上に微細化に積極的」(台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.(TSMC))。スマートフォンやタブレット端末,家庭用ゲーム機などのデジタル民生機器では,今後も半導体製造技術の微細化を求める声は消えそうにない。LSIの低消費電力化や低コスト化といった恩恵を,引き続き得られる見通しだからである。

 今後は,先端論理LSIの製造技術開発と生産を外部委託する半導体メーカーや機器メーカーが増える。そこで存在感を増すのが,ファウンドリー企業だ。ここといかに付き合い,うまく使いこなすかが,機器メーカーや半導体メーカーの競争力を決める。

本気になるSamsung社

 ファウンドリー企業の選択肢は,今後の技術開発と設備投資に求められる体力を考えると,3社に絞られそうだ。まずはTSMC。ほぼすべての競争軸で圧倒的な存在である(図)。同社に挑むのが,米GLOBALFOUNDRIES Inc.と韓国Samsung Electronics Co., Ltd.だ。

 GLOBALFOUNDRIES社は2009年春に設立された。マイクロプロセサで米Intel Corp.としのぎを削ってきた米Advanced Micro Devices, Inc.(AMD社)の製造技術と,アブダビの投資会社Advanced Technology Investment Co.(ATIC)の資金力が強みである。

 Samsung社は,2005年ごろにファウンドリー事業に参入した。「この5年間は技術を育ててきた。この先,顧客の獲得と設備投資を加速する」(同社)という。ファウンドリー市場でのシェアは2009年時点で2%弱だが,潜在能力は高い。

『日経エレクトロニクス』2010年6月14日号より一部掲載

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