2008年秋のリーマン・ショック以降,巨額の赤字に陥り,いまだその余波を引きずる国内電機メーカー。その中にあって,リーマン・ショック後も黒字を維持するなど,経営基盤の強さを見せたのが三菱電機だ。同社の強さの源泉は何か。市況が回復した今,次の成長をどこに求めるのか。2010年4月に社長に就任した山西氏に聞いた。同氏は長く生産技術畑を歩み,直近ではパワー半導体事業の成長を牽引した。(聞き手は田野倉 保雄=本誌編集長,大下 淳一=日経エレクトロニクス)

(写真:栗原 克己)

── ここ10年ほど,LSI事業の分離や携帯電話機事業からの撤退など,選択と集中を進めてきました。

 以前の三菱電機は,いわば“荒れ地”でした。それを耕す作業が,選択と集中というプロセスだったわけです。今,この土壌は種をまけば花が咲くほど肥沃になってきた。この肥沃な土壌が,我々の強さを支えています。ただし,現状を放っておけば再び荒れ地に戻ってしまう。市場の変化に対応するべく,今後も選択と集中を進めます。

 今後,我々が事業の柱とする領域は大きく二つあります。環境・エネルギー分野と社会インフラ分野です。いずれもこれまで力を入れてきた分野で,リーマン・ショックを境に,急速な成長を遂げ始めた分野でもあります。そして何より,日本の電機メーカーが世界での競争力を保っており,これからも勝負できる領域だと考えています。

── 環境・エネルギー分野では,以前から産業機器や鉄道,自動車などに向けたパワー・エレクトロニクス分野に注力していますね。

 ここでは,産業機器向けインバータやインバータ家電,ハイブリッド車および電気自動車向けの電装品など,強い製品群をそろえています。年間売上高は7000億円規模に達します。この分野での強さの源泉は,キー・デバイスとなるパワー半導体を内製していることでしょう。2010年度には,パワー半導体で1080億円の売り上げを計画しています。デバイスから製品まで一貫して手掛ける。これが我々の戦略です。

 現在,量産している「第6世代」のパワー半導体モジュールはSiを使ったものですが,次の「第7世代」ではダイオードにSiCを採用します。さらに「第8世代」ではMOS FETにもSiCを使い,フルSiCモジュールを商用化する計画です。電力損失の低減,高温耐性の改善,小型化など,得られるメリットは大きい。

『日経エレクトロニクス』2010年5月31日号より一部掲載

5月31日号を1部買う