筆記具メーカーのパイロットが、歯並び矯正用部品を開発して業界の注目を集めている。なぜ、異業種のメーカーが医療機器関連分野に食い込めたのか。そこには、シャープペンシルの芯から脈々と続く同社の独自技術があった。

 下の写真の青いケースの中に入った何やら変わった形状の物体。実はこれ、歯並びを矯正するときに患者の歯に装着する部品である。写真の上段にある部品を上顎の前方の歯に1つずつ、同じく下段の部品は下顎の歯に接着して使う。実際の大きさは3~4mmでジルコニア製。その名も「ジィーブラケット」(医療機器認証番号:221AGBZX00252000)だ。

 同製品は2009年11月に発売されたばかりで、売れ行きはまだ様子見の段階。しかし、歯科業界からは既に高い評価を受けている。その理由は主に3つ。(1)不純物がほとんどなく、より一般的な金属製に比べてアレルギーなどを防げること、(2)寸法精度が良く緻密な設計であるため、細やかな治療を施せること、(3)表面が滑らかであるため、口の中や歯を傷付けにくいこと、である。

 この製品を開発したのが、1918年創業の筆記具メーカー、パイロットコーポレーション(以後、パイロット)だ。既存のデザインを原型としたものだが、細部の設計や製造は同社が担当した。前述の3つの優位性が市場に受け入れられれば、後発ながらシェアを拡大できる。同社はこれを、医療機器関連分野進出の第1弾と位置付けている。

 筆記具メーカーが医療機器関連分野に新規参入する──。普通に考えれば無謀なチャレンジであるかに見える。しかし、パイロットにとって筆記具と医療機器は、成形技術という点で見れば同じレールでつながった「関連商品」だった。

〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕