雑誌 特集

鋼が設計を変える

2010/05/25 19:04
 

世界一の性能・品質を誇る、日本の高炉メーカー製の鋼板。それを利用すれば、難しい加工も難しいデザインもかなえられる。設計にとって非常に使い勝手に優れた素材だった。ところが今、ものづくりの現場ではそれとは別に、海外の鋼板を使ったり電炉メーカー製の鋼板を検討したりする動きがにわかに広がりつつある。コストの削減や原料高のリスク回避のためだ。これに合わせて設計が変わり始めた。(高田憲一)

Part1:地殻変動

鋼板選びに異変あり、力を付け始めた海外勢

 ホンダの「CR-Z」とインドTataMotors社の「Nano」を見比べてみよう。すると、「鋼が設計を変える」ことの意味が浮かび上がってくる。

 CR-Zは、最先端の技術を可能な限り安価に適用するという、日本のものづくりの王道の設計思想で開発されたもの。高張力鋼板(ハイテン)を多用して軽量化を図り、成形性に優れた日本製の薄鋼板で複雑な3次元形状を造り込んでいる(図1)。開発責任者の本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員の友部了夫氏は「シャープなエッジと凹状の面形状を組み合わせて、スポーツカーとしての躍動感を表現した」と語る。

 それに対し、Nanoの外観は極めてシンプルだ(図2)。これを、東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員の伊藤洋氏は、ある種、見事なデザインと評価する。「全体に丸みを帯びた形状なので、プレス成形で難しい深絞りはほとんど必要ない。これなら鋼板の品質がバラついても不良にならないので、現地の安価な鋼板が使える。しかし、全体としては愛嬌があって、親しみが持てるデザインに仕上げてある」(同氏)。

 つまり、CR-Zをはじめとする日本車の多くは、設計ありき。複雑な三次元形状の実現などその難しい要求に鋼板側が性能向上で応えてきた格好だ。しかし、Nanoは違う。伊藤氏の指摘通り、鋼板ありきだ。設計側が安価な鋼板の性能や品質に合わせている。この180°の発想転換こそ、「鋼が設計を変える」の真意である。
〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕

図1●軽量化とデザインを重視したホンダの「CR-Z」
図1●軽量化とデザインを重視したホンダの「CR-Z」
ハイブリッド・システムを搭載した小型スポーツカー。同システム搭載による質量増を抑えるために軽量化を徹底し、引っ張り強度980MPaのハイテンなどを利用している。最大出力はエンジン83kW、モータ10kW。燃費(10・15モード)は25.0km/L。価格は226万8000円から。Nanoの約10倍である。
図2●機能を絞り込んだインドTata Motors社の「Nano」
図2●機能を絞り込んだインドTata Motors社の「Nano」
写真は、最も価格が安いNano Standard。インドの国内価格は11万2735ルピー(約23万円)。エンジンは2気筒で、排気量は624mL。最高出力は26kW、最高速度は105km/h、車両質量は600kgだ。インドで2009年7月から納車が始まった。助手席側にはドアミラーがなく、運転席もリクライニングしない。

Part2:適材適所

欧州製に合わせて設計変更、こだわりを形にする日本製

 トヨタ紡織は、ポーランド工場で2011年に生産を開始するクルマのシート骨格に、欧州の鉄鋼メーカーArcelor Mittal社製の980MPaの高張力鋼板(ハイテン)を利用する(図3)。「日本製以外の980MPaのハイテンが本格的に採用されるのは、恐らく世界で初めて」(トヨタ紡織)。これは、国内外の鋼板を適材適所で使い分ける時代が来たことを象徴している。

 ハイテンは、特に自動車分野で注目を集めている。同分野では、二酸化炭素(CO2)排出量の増加と燃費悪化につながる質量増を抑えつつ、衝突安全性を高めることが求められている。ハイテンが脚光をあびるのは、こうした二律背反の関係にあるニーズを同時に満たすことができるからだ。

 そのハイテンは鉄鋼メーカーの技術力が強く反映される製品でもある。微妙に成分調整をした上で、厳密に管理された条件で加熱、冷却、圧延を施し、鋼板の結晶組織をきめ細かく制御して引っ張り強度を高める。
〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕

図3●ハイテンを多用したトヨタ紡織のシート骨格「TB-NF110」
トヨタ自動車と共同で開発した。モジュラー設計を採用し、4つの基本ユニットを組み合わせることで、さまざまな車種に対応できる。

Part3:電炉参入

東京製鉄社長 西本利一氏が答える
品質は高炉鋼板に遜色なし

──1620億円を投じた田原工場(愛知県田原市)が完成しました。

 田原工場の圧延工場は2009年11月の稼働です。他工場からスラブという半製品を運び、現在は月産約1万t規模で生産しています。さらに2010年5月末には製鋼工場が稼働するので、まあ6月から本格稼働と考えてください。田原工場の生産能力は年間250万tありますが、今年(2010年6月~2011年3月の生産量は50万tくらいとみています。

──高炉メーカーの牙城だった薄板分野に本格進出するわけですね。

 薄板自体は今も、既設の岡山工場で月産10万t近く生産しています。田原工場の立ち上げ時は、岡山工場の生産分を移管しながら増量を図ることになります。

 現在の当社の薄板販売は、建築・建材向けが中心ですが、それは我々がそういう売り方をしてきたから。コイルセンター経由で自動車分野や白物家電分野でも使っていただいていると聞いています。ただ、量はそれほど多くありません。

 田原工場は自動車用鋼板の工場と見られがちですが、いきなり自動車用途がメインになるわけではない。自動車メーカーの購買部門で話を聞くと、「田原工場でできました。じゃあ製品の品質をテストしよう」となっても、「実際に販売につながるまでには3年かかりますよ」と言われる。だから腰を据えてやっていきます。
〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕

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