ソニーは,デジタル・カメラやビデオ・カメラに向けた撮像素子市場で,圧倒的なシェア1位を続けている。画素ピッチの短縮やCMOSセンサの機能付加といった技術進化を自ら先導することで,競争を有利に進めてきたからだ。だが,それでも同社の撮像素子事業は盤石とは言えない。韓国企業や台湾企業が安価な品種から順にCMOSセンサ市場を席巻している。現に,ソニー製の撮像素子を搭載したカメラ付き携帯電話機は,世界市場ではどちらかと言えば少数派となってしまった。メモリやディスプレイなどで幾度となく再現されてきた構図を撮像素子では決して繰り返させない。ソニーで撮像素子部門を長く率いる鈴木氏は,こう固く決意し,強烈なリーダーシップを発揮している。顧客であるカメラ・メーカー幹部が寄せる信頼も厚い。鈴木氏に,これからの戦いに対する自信と方策を聞いた。(聞き手は大石 基之,大槻 智洋=日経エレクトロニクス)

(写真:加藤 康)

── 韓国Samsung Electronics Co., Ltd.や米OmniVision Technologies, Inc.と手を組む台湾TSMC社などが,撮像素子市場で勢いを増しています。特に携帯電話機向けCMOSセンサでは,ソニーを大きく超える個数シェアを確保している。こうした状況をどうとらえていますか。

 今挙げたようなライバルには,絶対に負けたくないですね。我々には,日本の半導体業界における最後の砦だという自負があります。光の利用効率が高い裏面照射型CMOSセンサの量産出荷で先行するなど,現在も相応の実績を上げている。

 もし撮像素子の競争が単に物量だけ,コストだけの勝負だったら,我々の思いなんて通じないでしょう。我々は,ライバルほどの大規模工場を持っていないし,持てないですから。でも幸い,撮像素子は画質で勝負できる。まだまだ顧客に喜んでもらえる機能を追加できる。

 我々は本(もと)はといえばCCDで,顧客の支持を得てきました。にもかかわらず,CMOSセンサに大きく舵を切った。CCDでは成し得ない映像表現が,CMOSセンサでは可能になるからです。画素数という空間解像度だけならばCCDで十分だったでしょうが,CMOSセンサはそこに出力速度という時間解像度の向上をもたらす。

『日経エレクトロニクス』2010年5月17日号より一部掲載

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