「技術者のための最新中国事典」は、中国に詳しいコンサルタントであり、現役の技術者でもある遠藤健治氏が、最新の中国事情を伝えるコラムです。変化が激しい中国のものづくりや市場、人々の文化や習慣など、日本企業のビジネスチャンスにつながり得る「今」の情報をすばやくとらえ、独自の分析や対策などのヒントを技術者向けに提供します。

 最低賃金が上がっているといっても、まだまだ先進国と比較するとはるかに安い。何しろ、13億人もの人口を擁する中国なのだから、工場で働く作業員の確保は容易だ──。

 こう考える日本人の技術者は多いのではないでしょうか。無理もありません。2000年前後の工場の中国進出ブームの時には、「作業員は無尽蔵」とも言われていました。中国の沿岸部にある工場には内陸の農村から出稼ぎ労働者が次々にやって来て、数年働いて生活費をためて帰郷していく。こうして作業員が抜けた穴は、別の出稼ぎ労働者によってすぐに埋められる、と。

 しかし、今の中国にこの考えは全く通用しません。特に、沿岸部の工場では人手不足が慢性化しています。何らかの理由で大量の作業員が辞めてしまうと、工場を運営できなくなる事態に見舞われる危険性すら出てきているのです。その背景には、内陸部の町の一部に見られる経済発展があります。

戻ってこない作業員

 中国には、「春節」と呼ばれる旧暦の正月(旧正月)があります。「日本の盆と正月を一緒に迎えるようなもの」と例える人もいるほどで、中国では1年のうちの最大行事となっています。春節を迎えるに当たり、中国企業では1月下旬から2月半ばの間に大型連休が組まれます。沿岸部の工場で働く作業員のほとんどが、この時期に長期休暇を申請して家族の元に帰省します。そして、しっかり骨休みした後、再び工場に戻っていくのです。

〔以下、日経ものづくり2010年5月号に掲載〕

遠藤健治(えんどう・けんじ)
技術者兼海外進出コンサルタント
日本と中国を含めたアジアのものづくりに詳しい技術者で、海外進出コンサルタント。京セラ入社後、開発部、生産技術部、品質保証部に勤務。中国工場における製造業務指導が評価され、同社を退社して精密機器メーカーの中国工場にて製造部長や品質部長を務める。現在、業務用機器メーカーの技術者として日本と中国をまたにかけて活躍中。著書に『日系中国工場製造部長奮闘記』『中国低価格部品調達記』(共に日経BP社)などがある。