巷にあふれる模倣電子部品

 2010年3月,ドイツ・ドナウヴェルトの税関は,スロベニアからやって来た,あるトラックの積み荷を押収した。それは何と,約12トンもの模倣,つまりニセの太陽電池モジュールだった。金額にして37万ユーロ(120円/ユーロ換算で4440万円)。太陽電池は中国製であり,EU(欧州連合)内の港で陸揚げされた後,トラックでドイツ国内への輸送中に押収された。通関手続きの際,係官がトラックに搭載された太陽電池の商標マークが変形または消失していることに気付き,模倣品であることが発覚したという。

『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号より一部掲載

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第1部<実態>
部品供給の穴を突き
機器の安全を脅かす

半導体やコンデンサなどの電子部品,太陽電池の模倣品が急増している。こうした模倣品は企業に金銭的な被害をもたらすだけではない。場合によっては製品の安全性を脅かし,企業イメージを低下させる。

太陽電池でも模倣品が見つかる

 「欧州では今,太陽電池の模倣品が毎日のように見つかっている」。ドイツの第三者認証機関であるTUV Rheinland社は,こう語る。「25年保証の太陽電池を買ったのに,1年で壊れてしまったというユーザーが我々に調査を依頼してくる。その結果,本物ではないことが判明する」(テュフ ラインランド ジャパン ビジネス デベロップメント/営業部 部長のTatiana Tarasova氏)。

 同氏によると,中国で作られた粗悪品の太陽電池モジュールに有名メーカーのラベルを張り付ける手口や,米国仕様の製品を欧州仕様と偽って高く販売する事例が増えている。また,「大規模な太陽光発電施設(メガソーラー)では,設置した太陽電池の約4%が盗まれており,模倣品業者が再販している可能性がある」(同氏)という。

 2009年7月,シャープの欧州法人は,同社の太陽電池モジュールの模倣品が発見されたことを受けて,模倣品の見分け方を顧客向けに告知した。それによると,模倣されたのはシャープの単結晶Si型太陽電池モジュール「NU-SOE3E」で,模倣品は梱包箱に印字された文字のつづりが間違っているほか,モジュールの封止部にも異常が見られる。真正品ではゴム製の封止材を使っているのに対し,模倣品は封止部にシリコーン樹脂のような物質を塗っているという。

半導体市場の5%が模倣品

 こうした太陽電池の模倣品は,ここ数年の需要の急拡大を突いて出てきた最新事例の一つ。半導体や電子部品では,模倣品はもはや珍しくない。

 例えば,米商務省 産業安全保障局(BIS)が2010年1月に発表した250ページにも及ぶ調査報告書「Defense Industrial Base Assessment:Counterfeit Electronics」は,兵器など軍用の半導体・電子部品での模倣品被害の深刻さを克明に描いている。

『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号より一部掲載

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第2部<対策>
チップに固有のIDを付与
国際標準を巡り各国が火花

半導体の模倣品対策技術が国際標準規格になる可能性が出てきた。対象は電子機器や電子部品はもちろん,医薬品や食料品など,全産業分野に及ぶ。国際標準化の主導権を巡り,各国の思惑が交錯している。

模倣品業者を締め出す仕組み

 「このままでは模倣品対策や次世代セキュリティーの市場を米国勢に牛耳られてしまう」。電子情報技術産業協会(JEITA)で半導体の模倣品対策などにかかわる,富士通セミコンダクター 知的財産本部 標準推進部 専任部長の飯田清和氏は危機感を募らせる。

 半導体の業界団体であるSemiconductor Equipment and Materials International(SEMI)が策定した標準規格「T20」を,米国主導でInternational Organization for Standardization(ISO)の国際標準規格にする動きが起きているからだ。T20は半導体の模倣品対策の手法をまとめた規格だが,セキュリティー分野にも応用できる。「ISOに限らず,標準化では主導者がもうかるのが常。米国主導で規格が決まるのではなく,きちんと日本の意見を反映させる必要がある」(飯田氏)。

 ISO化で注意が必要なのは,「一度決まると強制力が発生すること」(SEMIの標準化にかかわっている,ルネサス エレクトロニクス 品質保証統括部 品質企画部 エキスパートの伊賀洋一氏)である。SEMI標準は業界の任意規格なので強制力はないが,ISOは事情が異なる。例えば,電気自動車やスマートグリッドのように,高い信頼性やセキュリティーが求められる分野でISOへの準拠が義務付けられれば,「半導体メーカーや機器メーカーは,認定を受けない限り,市場に参入できなくなる」(伊賀氏)。

『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号より一部掲載

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