長期的な成長が可能な新産業を求め、医療機器分野に進出する企業が増えている。今まで培ったものづくりの実力を利用すれば、医療関係者の多様な要望を的確に実現できる。一躍、最先端の研究現場、臨床現場でキープレーヤーとして活躍することも可能だ。

 患者か得らた検体からインフルエンザ・ウイルスが持つ遺伝子を検出することで、インフルエンザの詳細な種類まで確実に診断する。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によるこの診断を約20分で下すという世界最先端の研究が、国立感染症研究所で進んでいる。そこで活躍している機器は、日本メーカーのトラストメディカル(本社兵庫県加西市)のものだ。

 トラストメディカルは、2009年10月に金型メーカーのトラストから分離独立したばかりの企業で、社長はトラスト社長の児玉崇氏が兼任している。つまり、家電メーカーや機器メーカーからの注文を黙々とこなしている金型メーカーが、実は同時に世界最先端の舞台で主役を演じていたのだ。

 製造業として実力を養ってきたメーカーが、新天地を求め始めている。価格下落の激しい既存製品での競争は続けなければならないにせよ、持てる技術をメーカーにとって新しい多様な分野、すなわち医療や農水産業といった「新産業」で生かしたい。そして、それは事実可能なのだ。

 中でも医療機器の分野は、国内メーカーがシェアを高められる余地が大きい。加えて、医師の潜在ニーズにも未対応の領域が多くある。やり方次第で高い成長を見込める市場なのだ。

 大阪商工会議所が中心となって2003年から実施している「次世代医療システム産業化フォーラム」は、医師や医療機関が持つニーズと、メーカーが持つシーズとをマッチングする場として着々と成果を上げている。参加機関・参加企業は年々増加し、2009年度の参加者は659人に達した(図)。

〔以下,日経ものづくり2010年4月号に掲載〕

図●医療機器分野への進出機会をうかがう企業が増加
大阪商工会議所が事務局を務める「次世代医療システム産業化フォーラム」への参加メンバーは、年々増加している。参加企業・機関、参加者は年度ごとに登録し直すので、数値は累計ではなく年度ごとのもの(ここでの中小企業は資本金3000万円以内の企業)。データの出所:大阪商工会議所