この中に理数系の方ってどのくらいいますか?
(生徒のほとんどが手を挙げる)
数学っていうと、記号が並んでいるし、解を得るまでの作業は機械的だしで、ほとんどの人にとってつまらないものですよね。でも、我々のような科学者にとっては、数式は単なる記号じゃない。生き物のように踊って見えます。
それは、別の言い方をすると、物に触れているときに感じられる「質感」のようでもあります。学校で習ったような定義証明を淡々とやっていく数学だと、ただの記号操作になってしまうから面白くないし使えない。けれど、我々が感じている質感を皆さんにも味わってもらえれば、具体的なイメージがつかめて、技術の現場でも使える武器に変わると思うんです。連載を通して皆さんに、こんな生きた数学を伝えたい。なので、これを連載の出口としましょう。
(ボードに下掲の文字を書く。すると、受講者の1人が挙手)
「すみません、質問です」
あっ、いいですねぇ。どうぞ。
「数理科学って、数学とどう違うんですか」
すばらしいっ。非常にいい質問です。私は数学と数理科学を似たような意味で使うこともありますが、厳密に言うと、数学だけでは実社会への応用まで行けません。そこに物理、つまり「理(ことわり)」が入っている必要があります。
(ボードに「数学→物理→工学→応用」と書いていく)
〔以下,日経ものづくり2010年4月号に掲載〕
東京大学 教授