これまで,微細な加工寸法のCMOS技術で実現が難しいといわれてきた高精度な基準発振器や温度センサ。斬新な発想により,微細な寸法の製造プロセスでも高精度を実現し,さらに,微細化に伴い精度が高まる回路技術を,オランダの大学が開発した。外付けの発振器の置き換えや,チップ上での高精度な温度測定を可能にする。ISSCC 2010での報告内容や関係者への取材から,同技術の可能性を探る。

製造バラつきの影響を受けにくい素子「ETF」

 「半導体のオリンピック」とも称される国際会議「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)」。世界中の半導体技術者が最新の成果を競う場で,今回,7件もの論文を発表した気鋭の研究者がいる。センサやアナログ回路の研究者であるオランダDelft University of Technology(TU Delft)教授のKofi Makinwa氏だ。2010年2月に米国で開催された「ISSCC 2010」において,同氏は研究室単独で3件,半導体メーカーとの共同研究として2件,他大学・企業と共同で欧州委員会(EC)からの助成を受けた研究として2件の論文を,それぞれ発表した。

 ISSCCでは半導体メーカー最大手の米Intel Corp.が例年,10件以上の論文を発表しているが,一大学の研究室がここまで多くの論文をISSCCで発表することは珍しい。

微細プロセスで高精度確保

 今回,TU DelftのMakinwa氏が発表した7件の論文の中には,特にISSCC来場者らの注目を集めた2件の論文がある。一つはデジタル回路のクロック源となる基準発振器,もう一つは電力管理用にチップの温度を計測する温度センサだ。

 発振器と温度センサはいずれも典型的なアナログ回路であり,これまで微細な加工寸法のCMOS技術を用いて,SoC上のオンチップ回路で高い精度を実現することは難しいとされてきた。そうした中,今回,TU Delftは微細な加工寸法のCMOS技術で製造しても高い精度を確保できる新しいタイプの発振器と温度センサを開発した。「オンチップのCMOS回路でここまで正確な時間基準をトリミングなしで作れることは驚きだ」(アナログ回路を研究する群馬大学 大学院 教授の小林春夫氏)。

『日経エレクトロニクス』2010年3月22日号より一部掲載

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