第1部<主導権争い>
自動車と家電の主役を狙い
新興企業が続々参入

米国は,スマートグリッドの構築とともに,充電インフラを一気に整備する。この市場を狙い,多くの企業が参入してきた。将来,電力情報を核に新サービスを始めて,自動車と家電の両産業で新しい主役になることを狙っている。

充電インフラ市場はもう立ち上がる

 充電インフラの整備は,プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)が普及しなければ始まらない。しかし,PHEV/EVの普及には,充電インフラが要る。この“鶏と卵”の関係から脱するには,しばらく時間がかかる──。

 こう考えていると,千載一遇のチャンスを見逃すことになる。もう,充電インフラ市場の争奪戦の火ぶたが切られているからだ。

 確かに,PHEV/EVの価格は少なくとも今後5年程度は高そうで,自動車市場で存在感を示すまでには時間がかかる。だが,充電インフラ開発は,PHEV/EVの市場拡大に合わせてのんびり進むことにはならない。米国が,「スマートグリッド」と呼ぶ大規模な電力網の整備に向け,充電インフラの拡充を一気に進めているからだ。

 旗振り役は,米国のObama政権である。同政権にとって,PHEV/EV産業の創出に必要な充電インフラ整備は,欠かせない政策だ。将来的に,PHEV/EVは世界で市場の成長が見込まれる産業である。いち早く充電インフラを構築すれば,その技術を世界に売り込める。

『日経エレクトロニクス』2010年3月22日号より一部掲載

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第2部<標準化争い>
日本企業が見据える先は中国
そのために米国で標準化

充電インフラ開発には,各種仕様の標準化が欠かせない。標準化をトップダウンで進める米国に対し,日本企業が攻め込んでいる。技術の強みを武器に,米国の弱点を突く。そんな日米が見つめる先は中国。どちらが主導権を持って中国に乗り込めるのか。

米国は政府主導で中国に乗り込む

 充電インフラを巡る主導権争いは,企業同士だけではなく,国や地域同士もぶつかり合う。競う場は,電力情報や電力そのものを,車両と住宅,そして電力網でやりとりする規格に向けた標準化である。充電インフラの進展で自動車や住宅が“通信端末”となるならば,端末間でやりとりするための標準化は欠かせない。自国の企業にとって有利な仕様にするべく競い合う。

 そんな各国が強く意識するのは,中国市場である。中国政府は今後10年間で,総額4兆元(約53兆円)に上る巨額の設備投資を電力インフラの構築へ投入する計画を立てている。中国市場へ入り込みたい各国は今や,国際標準化活動の場で「中国の参加者が発言すると,全員が一斉に耳を傾ける」(充電インフラ関連の標準化活動に加わる国内関係者)状況にあるという。

米国は中国と共同開発

 その中国に,トップ交渉から乗り込んだのが米国である。2009年11月,米国のBarack Obama大統領は中国の胡錦涛国家主席と共同で,「U.S.-China Electric Vehicles Initiative」(米中電気自動車イニシアティブ)を発表した。今後,充電インフラ開発に向けた標準仕様の共同開発や,10数都市での実証実験などを進める。

『日経エレクトロニクス』2010年3月22日号より一部掲載

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第3部<普及のカギ>
充電料金の無料化は可能
ユーザー本位のインフラ開発

充電インフラの拡大には,充電スタンドの設置者やPHEV/EVの所有者が使いやすい仕組みが不可欠だ。そこで,各社がさまざまな機能を備えた充電スタンドの開発を始めた。将来は,機能を駆使すれば電力料金を支払わずとも充電できる時代が到来するだろう。

充電インフラ開発の最終形は車両の充放電管理

 国がトップダウンで充電インフラを整備しようとしても,ユーザーにとって使いにくければ,充電インフラは結局,“ハコモノ”となってしまう。充電インフラの拡充には,ユーザーにとって使いやすい仕組みが必要である。ここでいう“ユーザー”とは,電力事業者や自動車メーカー,電機メーカーなどではない。充電スタンドの設置者や車両の所有者などを指す。

 充電インフラの開発の現場では,こうしたユーザーに向けた取り組みが盛んに議論されている。例えば,充電スタンドの設置者が管理しやすくなるように,豊田自動織機は充電スタンドの開発を進める。車両の所有者が充電の手間を省ける仕組みも盛り込んだ。

 充電スタンドの設置者や車両の所有者が購入しやすい仕組みを備えた充電スタンドを開発するのが,日本ユニシスである。複数の車両の所有者による共同購入や,設置者の購入費用の回収を容易にした。充電スタンドの利用者ごとの充電量に応じて,課金できる機能を搭載する。

 さらに,車両の所有者の充電料金を下げる研究も進んでいる。そこで重要になるのが,「Vehicle to Grid(V2G)」である。V2Gが実現すれば,車両から電力系統に放電することで電力系統の品質維持に貢献できる。この対価を車両の所有者が得ることにより,充電料金を下げられる。

 その上,車両の所有者が太陽電池などの再生可能エネルギーを住宅に保有していれば,その電力を車両に充電し,電力料金の高い時間帯に売電することもできる。こうなれば,利益を上げることも可能だろう。現在,大学などが中心となって研究を進めている。

『日経エレクトロニクス』2010年3月22日号より一部掲載

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