「開発の鉄人 現場をゆく」は,筆者自らが開発の現場に出向き,そこで体験し,得たものに基づいて書いている。開発の現場,そこには,その会社の行く末を決める最も重要で,しかも最新の情報があると思うからだ。「現場に入ること」は,このコラムを構成する基本である。従って,研究室や工場に立ち入らなければ,「現場をゆく」にはならない。

 今回の取材,実は,工場には入れないとあらかじめ知らされていた。しかし押しかけてしまえば,わざわざ来てくれたのだからと入れてもらえるのではないか,あるいは,もう一押しお願いすれば…などと,要は,はしたない甘えと期待を持ちながら行ったのだ。

 それが,着くや応接室に通されて,さあどうなるかと膨らむ期待にピシャっと一言, 「入れませんからね」。それも,ニコニコしながら言われてしまったのだ。ダメモトで行っているのだから,文句は言わない。しかし,本当に入れないとなると,原稿をどうしようかと,焦りでいっぱいになってしまった。

 ところがその不安は,やがて吹き飛んだ。ここには,強い信念と顧客の信頼に足る技術力があることが分かったからである。

〔以下,日経ものづくり2010年3月号に掲載〕

多喜義彦(たき・よしひこ)
システム・インテグレーション 代表取締役
1951年生まれ。1988年システム・インテグレーション設立,代表取締役に。現在,40数社の顧問,NPO日本知的財産戦略協議会理事長,宇宙航空研究開発機構知財アドバイザー,日本特許情報機構理事,金沢大学や九州工業大学の客員教授などを務める。