「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 職場を導く管理者にとって大切な仕事は,メンバーが活躍できる環境を整えること。そのために,前向きに取り組むための仕掛けを施すことです。メンバーが仕事に着手したら,成果を出すまでじっと見守り,くじけそうなときには相談に乗って,再び挑戦できるように支えてあげる。解決が難しい問題に直面したときには共に悩み,一緒に知恵を絞って乗り越える。明らかに手を抜いたときには,成長を促すためにきちんと叱ることも必要です。ただし,決して怒ってはならない。こうしてメンバーの背中を押しながら,「人財」へと向かう階段を一段ずつ歩ませていく──。

 何も言わなくても自ら動き,きちんと成果を出すメンバーは,管理者自らが育てなければ生まれてこない。そうした人財を育成することに粉骨砕身努めることが管理者にとって最も大切な仕事であると,これまで本コラムで説いてきました。

 やりがいは大きいのですが,責任という重圧も管理者の両肩に乗ってきます。立派な管理者になってほしいがために,私も皆さんに少し厳しく言ったところがあるかもしれません。しかし,いつ何時も何においても深刻にとらえ,つらく考えてばかりいては肉体的にも精神的にも持たないでしょう。やはり,仕事は楽しくするに越したことはありません。仕事が厳しいのは当然として,少しでも楽しく取り組むコツを覚えて,次の挑戦への英気を養いましょう。

〔以下,日経ものづくり2010年3月号に掲載〕

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産準備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成や指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社し,HY人財育成研究所を立ち上げて所長に就任。トヨタ自動車で学んだ業務の進め方や人材育成について,講演や執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」がある。心に染みる語り口で人気。