2009年7月,経済産業省は820億円を出資して,政府系ファンド「産業革新機構」を設立した。株式会社の形態を採り,環境関連ベンチャーの育成や特許など知的財産の流通といった投資事業を行う,15年間の時限組織である。大企業から特定の事業部門を切り出して再編する,いわゆるカーブアウト型の投資案件も視野に入れ,同機構の借り入れを政府が8000億円まで保証する「政府保証枠」付きの大型ファンドとなった。第1号投資案件はまだ確定していないものの,発足から約半年が経過し,東芝と共同で応札したフランスAreva社の送配電部門買収や,アルプス電気の磁性材料関連の新規事業など,検討中の具体的な投資案件が明らかになってきた。どのような方針で日本の「産業革新」にかかわっていくのか。経済産業省 産業構造課の課長時代に同機構の構想を立案し,発足と同時に同機構 執行役員に就任した西山氏に,同機構の行方と指針を聞いた。(聞き手は進藤 智則=日経エレクトロニクス)

(写真:中村 宏)

── 産業革新機構は手掛けるべき投資案件の類型として,(1)先端技術の知的財産プール型,(2)有望なベンチャー企業の買収・再編(セカンダリー・ベンチャー)型,(3)大企業からの特定事業部門の切り出し・再編(カーブアウト)型の三つを掲げています。これらの三つの間に,何か優先順位などはあるのでしょうか。

 我々は発足した当初から,これら三つは独立ではなく,互いに関連があると思っています。ある類型が活発になると,他の類型も起こりやすくなる。大企業同士の再編が起きにくい状況の中で,大企業がいきなりベンチャーを取り込むことは難しい。オープン・イノベーションといわれるように,大企業が自社内だけではなく社外で開発されたベンチャーなどの技術を積極的に利用するようになるには,大企業自身が変わる必要がある。そういう意味で,投資案件の類型である(1)~(3)は相互に関連している。だから,特に優先順位は設けていません。

 ただ,投資金額という面で見れば,(1)~(3)で差は出てくるでしょう。当機構は最大8000億円の投資枠がありますが,例えば(1)の知財プール型でいきなり1000億円を使うことは普通に考えてあり得ない。投資枠を大きく設定してあるのは,やはり(3)の,大企業からのカーブアウトを想定しているからという側面が大きい。

『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

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