膨張する「Google圏」

 米Google Inc.は,創業から現在まで一貫して「膨張の歴史」をたどってきた。原動力になっているのが,「世界中の情報を整理し,誰からもアクセスできるようにする」というミッション(使命)である。端末向けの基盤ソフトウエアを無償でばらまくことで,高機能で安価なネット端末を世界中の人々が利用できるようになる。これは,ミッションに合致すると同時に,同社の収益向上にもつながる。Google社は,旧来のビジネスモデルを自らのやり方で次々に破壊しながら,ミッションの実現に邁進しているのである。

『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

2月22日号を1部買う

第1部<Googleを知る>
ついに電力事業まで開始
狙いはトラフィックの増加

「Google社はネット検索サービスの企業」というのは,もはや古い認識だ。同社は2010年1月,「Nexus One」で携帯電話機の販売に乗り出した。そして今,電力事業にも進出しようとしている。膨張の勢いは止まらない。

エネルギー関連に多額の投資
Google社の傘下で公益活動を手掛けるGoogle.orgが投資・寄付したエネルギー関連の案件。(図:Google社のデータを基に本誌が作成)

 米Google Inc.は2009年12月23日,米国の各州間で行われるエネルギーのやりとりを規制・監督する米連邦政府の「Federal Energy Regulatory Commission(FERC,米連邦エネルギー規制委員会)」に電力事業の申請を行った。既に同社は,電力事業を行う子会社として米Google Energy LLCを設立している。許可が下りれば,Google社はGoogle Energy社を通して電力を売買できるようになる。

5000万米ドル以上を投資

 Google社でエネルギー分野を担当しているGreen Energy CzarのBill Weihl氏によると,再生可能エネルギーなどのグリーン・エネルギーに対する取り組みは,同社の創業者であるLarry Page氏とSergey Brin氏,CEOのEric Schmidt氏の「環境破壊による気候変動は人類にとって大きな危機である」という信念から始まったという。同社は2007年にプラグイン・ハイブリッド車の試験運用を開始し,本社ビルの屋上やカーポートの屋根に太陽電池パネルを設置するといった取り組みを行っている。

 Google社のエネルギー関連の活動は,同社の傘下で公益活動を行っている「Google.org」が担当している。Google.orgは2005年に設立され,今までに1億米ドル以上の資金をさまざまな分野に投資・寄付してきた。このうち5000万米ドル以上がエネルギー関連分野である。

『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

2月22日号を1部買う

第2部<Androidを知る>
次の主戦場はテレビ
業種や規模を超えた戦いに

Google社がエレクトロニクス業界で引き起こした「創造的破壊」が,Androidの無償配布である。これまで機器開発のノウハウを持たなかった企業にも,参入のチャンスが生まれた。今後,最も注目されるのがテレビへの展開だ。

Androidが引き起こした大競争の世界
Androidを採用することで誰でもデジタル機器を開発できるようになるため,異業種の企業やベンチャー企業からの参入が相次いでいる。

 Androidは当初,携帯電話機向けのソフトウエア基盤として誕生した。それは,Androidの開発・普及を推進している米Open Handset Alliance(OHA)の名前に「handset(音声端末)」と付いていることからも分かる。ただし,Androidには「豊富な機能を持つ,汎用の組み込み機器向けLinuxディストリビューション」という側面もある。実際に,携帯電話機以外のAndroid搭載機器が続々と登場している。

 Androidのインパクトを象徴しているのが,既存の大手メーカー以外の新規参入が目立つことだ。Android自体はオープンソースで公開されており,誰でも利用できる。AndroidとEMS/ODMを組み合わせれば,異業種やベンチャーといった機器開発の経験が乏しい企業でもネット対応機器ビジネスに参入できる。

テレビへの進出は自然の流れ

 次にAndroidが搭載される機器の最有力候補が「テレビ」である。普及台数が多いテレビをインターネット端末にできれば,トラフィックを大幅に増やすことができる。「米Google Inc. がテレビ・メーカーや大手半導体メーカーと共同で,Androidを搭載したインターネット・テレビを開発中」とのうわさは根強い。「Google社は今,家電業界を猛烈に勉強している。モノづくり,販売チャネルなど,すべてだ」(ある組み込み技術者)。「Nexus One」のように,Googleロゴを携えたテレビが登場する可能性は十分にありそうだ。

『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

2月22日号を1部買う

第3部<WebKitを知る>
オープンソースとうまく付き合い
荒削りなWebKitを乗りこなす

Google社がWebブラウザーの実装に一貫して使用するライブラリがWebKitである。ただ,このライブラリはクセが強く,利用するにはコツが必要になる。そこで,内部構造に詳しい技術者に賢い付き合い方を解説してもらった。

 米Apple Inc.が中心になって開発しているオープンソースのWebブラウザー・ライブラリが「WebKit」である。同社のMac OS XやiPhoneが搭載するWebブラウザー「Safari」が,これを利用している。また,米Google Inc.のWebブラウザー「Chrome」やパソコン向けOS「Chrome OS」,組み込み機器向けOS「Android」もWebKitを採用している。さらに,米Palm,Inc.の「Palm webOS」やフィンランドNokia Corp.の「Qt」などでも利用されている。HTML 5やCSS3といった最新のWeb標準をサポートするのに加え,優れた性能や移植性の高さも人気の理由である。現状では,短期間で最新のWebブラウザーを実装する最適解といえる。

 しかし,いざWebKitのソース・コードを眺めてみると,広く普及したLinuxなどのオープンソース・ソフトウエアとは異なる,荒削りな面が見えてくる。

『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

2月22日号を1部買う