軽金属や繊維強化樹脂を使えばクルマを軽くできることは分かっている。しかし、価格と両立できるのはやはり鋼だ。鋼で造るのなら、板で造るよりは管で使いたい。同じ質量でも部材の強さ、剛性を高くできる。高張力にするための熱処理と同時に曲げ加工してしまう鋼管、従来より肉厚にして使いみちを広げた鋼管、パワーステアリングの電動化に対応する鋼管製ラックバー。鋼管を生かした技術が一段進歩した。

 部材は中実より中空、中空なら管で使う方が有利だ。まず中実と中空を比べると、特に曲げやねじれを受ける部材では明らかに中空が有利だ。中心軸のそばの歪みを受けない、つまり働かない部分の肉をなくせば、同じ質量で、より大きな曲げやねじれに耐えられるからだ。  中空にも開断面、閉断面、鋼管の3段階がある。1本のはりを上からつぶすことを考える〔図(a)〕。コの字に曲げただけの開断面では、左右の辺がほとんど抵抗なく開き、または倒れて、完全につぶれてしまう。
 これに補強板を当てて閉断面とすれば、左右がつながっているため、開こうという力に対抗する〔図(b)〕。ただし、スポット溶接するための“ノリシロ”部分が外側に必要になり、その分は閉断面でないただの梁になる。剛性、強度に寄与しない部分が断面積の中で大きな比率を占めてしまう。
 管ならば、こうした問題はない。スポット溶接が特定の弱点を持つのに対し、1周にわたってほぼ均一な強さがあるため、破壊の起点になりにくい〔図(c)〕。のりしろがないため、100%の部材が閉断面として働く。
 一般に、開断面から閉断面にすると20~30%軽量化でき、閉断面から管にするとさらに10~20%軽量化できるといわれる。掛け算すると、30~50%軽量化できることになる。できるものならば、強度部材を全部鋼管で造りたい。

以下,『日経Automotive Technology』2010年3月号に掲載
図 各種の閉断面の比較
(a)開断面、(b)閉断面、(c)管。