PNDの台頭で苦況に立つ国内カーナビ・メーカーが反撃に出た。武器は革新的な製品ではなく「特許」。特許訴訟巧者で知られるパイオニアが,日米欧でカーナビ特許訴訟を仕掛けたのだ。訴訟の行方は,近い将来,PNDすら飲み込もうとしているスマートフォン・ナビの行方に大きな影響を与えそうだ。

特許訴訟がカーナビ業界に波紋
現在は,カーナビ市場の主流がPNDからスマートフォン・ナビへ移り変わる転換期である。そんな時期に,日米欧で特許訴訟を起こしたパイオニアの行動が大きな波紋を呼んでいる。

 「そのうち,どこかが仕掛けると思っていた」──。

 パイオニアが日米欧で起こしたカーナビ関連特許の訴訟に対して,国内カーナビ・メーカーの技術者は驚いたふうもなく,一様にこう答える。

 パイオニアが相手取ったのは,国内の携帯電話機向けナビ・サービスで首位のナビタイムジャパンと,簡易型カーナビ(PND)市場で世界首位の米Garmin International, Inc.とその関連会社。2009年10月から11月にかけて,ナビタイムを東京地方裁判所に,Garmin社を米国際貿易委員会(ITC:International Trade Commission)とドイツDusseldorf地方裁判所で提訴した。

 ナビタイムには,自動車での利用に向けたナビ・アプリケーション「EZ助手席ナビ」の提供の差し止めと約10億円の損害賠償を,Garmin社には米国へのPNDの輸入差し止めなどを要求した。

提訴は時間の問題だった

 この訴訟が起きた背景には,国内カーナビ・メーカーの影響力がかつてと比べて,極めて小さくなった事実がある。

 もともと,民生用カーナビが世界で初めて普及し始めたのは日本である。国内カーナビ・メーカーは1990年ごろから各社で競争を繰り広げながら,高価で高機能の据置型カーナビを開発し,大きな利益を得てきた。

 ところが今,国内メーカーは世界のカーナビ市場では隅に追いやられている。2005年ごろから,安価なPNDが市場を席巻し始めたからだ。富士キメラ総研の調査によると,現在,世界のカーナビ市場における約85%がPNDである。高機能品にこだわった国内メーカーは,このPND市場で完全に出遅れた。

『日経エレクトロニクス』2010年1月11日号より一部掲載

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