ドイツSiemens AGは,日本では医療機器や,車載向け通信機器などを開発する「IT企業」という印象が強いが,世界では発電施設を含む電力系統(電力網)のインフラ大手としての顔がむしろ有名かもしれない。同社は,風力発電や太陽光/太陽熱による発電プラントを積極的に開発・導入するなど,欧州で進む電力網の急速な変化をインフラ面から支え,最近は中国での高圧直流(HVDC)での長距離送電線の敷設などでも実績を上げている。同社の日本法人でエナジー セクターヘッドを務めるFrank氏に,欧州のスマートグリッド事情を聞いた。(聞き手は,野澤 哲生)

(写真:加藤 康)

─初めに,Siemens社は電力インフラ事業で,何をしているのかを教えてほしい。

 当社のエネルギー・セクターは,油田の探索など燃料の開拓から,発電所送配電網や建設,電力の制御システム,家庭に設置するメーター機器の開発まで,電力に関係するインフラすべてを提供している。我々はこれを「完全なエネルギー変換チェーン(complete energy conversion chain)」と呼んでいる。発電所としては,石炭や天然ガスを用いた火力発電のほかに原子力発電,さらに風力や太陽光,バイオマスといった再生可能エネルギーも手掛けている。発電の選択肢を増やすため,2009年10月には太陽熱発電事業のイスラエルSolel Solar Systems Ltd.を買収した。

 そして,こうしたインフラを世界の電力サービス事業者,例えばドイツや英国ではE.ON AGやRWE AG,オーストリアではVerbund AG,デンマークならDONG Energy A/Sなどに提供している。彼らは我々の重要なパートナーだ。特に,DONG Energy社は欧州でもクリーンなエネルギーの開発に積極的な事業者で,30年も前から効率の非常に高い火力発電や風力発電の導入を進めている。

 デンマークは再生可能エネルギー,特に風力発電導入のトップランナーといえる。同国は,電力網とその電力の需給を,通信技術で制御するシステムを,産官学で共同開発する「エジソン・プロジェクト」を進めている。我々はこれに参加して,風力発電の出力変動を平準化するためのコンバータや通信技術を利用した制御システムを開発し,貢献してきた。今は,出力を平準化する蓄電装置などの開発にも取り組んでいる。これは日本のメーカーが強い分野だが。

『日経エレクトロニクス』2008年12月28日号より一部掲載

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