失敗の裏に日本のベンチャーを
巡る構造問題

第1部<検証>
経営とマーケティングの迷走
「技術さえ良ければ…」の末路

2009年7月,日本の大型ファブレス半導体ベンチャー企業が自己破産した。ダイナミック・リコンフィギュラブル(動的再構成)プロセサを手掛けるアイピーフレックスだ。負債額は約3億円。日本の技術ベンチャーとしてトップクラスとなる総額62億円もの資金を国内外のベンチャー・キャピタル(VC)から調達し,動的再構成プロセサという未踏の領域に挑んだ。しかし,創業から9年目,夢はついえた。なぜアイピーフレックスはVCが期待するような成功を収められなかったのか。資金調達の経緯,および失敗の要因を経営面,マーケティング面のそれぞれから検証する。

創業者・元CTO 佐藤友美氏 インタビュー

『日経エレクトロニクス』2009年12月28日号より一部掲載

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第2部<技術分析>
面積はFPGAやGPU並み
IPコア化やツール面でも課題

大きなチップ面積,レイアウト設計の最適化不足,IPコア化を想定していないアーキテクチャ,未熟な開発ツールなど,アイピーフレックスの動的再構成プロセサは,技術面でも成功を阻むいくつかの課題を抱えていた。

 アイピーフレックスが失敗した背景には,経営面やマーケティング面だけではなく,技術面での課題もあった。具体的には三つある。(1)チップ面積がFPGAやGPU並みに大きかったこと,(2)IPコア化を全くといっていいほど想定しない設計になっていたこと,(3)C言語入力の開発ツールの完成度が未熟であったこと,である。以下,それぞれについて分析していく。

足を引っ張ったチップ面積

 最大の課題は,やはり動的再構成プロセサの宿命ともいえるチップ面積の大きさである。アイピーフレックスの製品に限らず,一般に動的再構成プロセサは4~32ビット程度の演算器(PE)をアレイ状に数十~1000個ほど配置し,それらをスイッチやバスなどで接続する。PE同士の結合を変えられるようにするため,バスの配線量が膨らみ,チップ面積が大きくなりやすい性質がある。

C言語入力ツールが未熟なまま資金は尽きた
C言語入力ツール「DFC」の合成結果を実用レベルに引き上げることが大きな課題だったが,結局,それを果たせないまま開発資金は尽きた。
『日経エレクトロニクス』2009年12月28日号より一部掲載

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第3部<ドキュメント>
破綻への10カ月
大型増資はなぜ失敗したのか

アイピーフレックスは破綻直前の2009年,経済産業省が設立した政府系ファンド「産業革新機構」から30億円の出資獲得を目指したが,「最後の挑戦」は失敗に終わった。破綻までの10カ月を追う。

ベンチャー支援などを目的とする「産業革新機構」
2009年7月に政府が特別会計から820億円を出資して,株式会社形態の政府系ファンドとして立ち上げた。(写真:中村 宏)
『日経エレクトロニクス』2009年12月28日号より一部掲載

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