国土交通省の昇降機等事故対策委員会が2009年9月8日に「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査報告書」を公表したことで,発生から3年以上にわたって続けられてきた事故の原因究明と再発防止への取り組みは一区切りが付いた。事故原因とされたブレーキは,果たしてフェイルセーフの要件を満たしていたのか,十分なリスク評価は実施されたのか──。事故から得られた教訓を見極める。
2006年6月3日に東京都港区の集合住宅「シティハイツ竹芝」で発生したエレベータ事故の発生から3年半が過ぎた。その間,事故原因の究明と再発防止策の制定に向けて国土交通省や港区などが取り組み,一定の成果を上げた(図)。
安全装置の設置を義務付けた建築基準法施行令が2008年9月19日に改正され,2009年9月8日には国土交通省の昇降機等事故対策委員会が「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査報告書」(以下,調査報告書)を公表し,国としての最終見解も示した1)。事故原因としては,停止時にエレベータのかごが動かないように保持すべきブレーキが,事故時には機能していなかった可能性が高いという結論が明らかになっている。
しかし,事故発生から調査報告書の公表までに要した時間,その経緯,現時点での法整備も含めた対応状況を見てみると,尊い命を奪ってしまった事故の教訓がすべて生かされているとは言い難い。事故を確実に防止するために今後,取り組むべきこととは何か──。本稿では,「フェイルセーフ」「リスクアセスメント」「事故調査」という三つのキーワードから今後に生かすべき教訓を見ていく。
〔以下,日経ものづくり2010年1月号に掲載〕