東芝が満を持して2009年12月に発売する55型の液晶テレビ「CELL REGZA」。
マルチコア型マイクロプロセサ「Cell」の高い処理性能を利用したソフトウエア処理で,従来のテレビの常識を覆す圧倒的な機能を実現した。
価格下落が急なデジタル家電のトレンドと逆行する100万円の超高額商品は,テレビに何をもたらすのか。

(写真:木村 輝)

 「絶妙なタイミングで商品化できた」。

 東芝 デジタルメディアネットワーク社でテレビの商品企画を統括する本村裕史氏(映像マーケティング事業部 映像グローバルマーケティング部 参事)は,2009年12月に発売するテレビの新機種に自信の笑みを見せた。

 その新機種は「CELL REGZA 55X1」。東芝とソニー・グループ,米IBM Corp.が共同開発したマルチコア型マイクロプロセサ「Cell Broadband Engine」を搭載した初めての液晶テレビだ。

 Cellは,2006年11月にソニー・コンピュータエンタテインメントが発売した家庭用ゲーム機「プレイステーション 3」(PS3)向けに開発されたマイクロプロセサである。Cellは開発段階から,他の分野でも応用を目指す開発企業3社の構想が明らかにされており,エレクトロニクス業界の注目を集め続けてきた。特に,テレビをはじめとするデジタル家電分野では,高い処理性能を生かした新たな応用への期待と,コスト高などから「本当に使えるのか」という疑念が入り混じった見方が広がっていた。

 PS3の発売から3年。東芝が第1弾として出した答えが,今回のCELL REGZAだ。2008年2月には長崎県諌早市にあるソニーのCell製造ラインを約900億円で買収。ソニーのCell家電構想が下火になる中,東芝はテレビ事業の成長と同時に,半導体事業を建て直す期待をかけた戦略商品として,このテレビを投入した。

 「コモディティー化が進み,“今のテレビ”は誰でも作れるようになった。東芝は“明日のテレビ”を作る。CELL REGZAに載せた機能の多くが,いずれテレビの標準になる」。CELL REGZAこそ,テレビの将来像──。発表会で宣言した,東芝執行役常務でデジタルメディアネットワーク社 社長の大角正明氏の鼻息は荒い。

『日経エレクトロニクス』2009年12月14日号より一部掲載

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