消火器の事故が相次いでいる。2009年9月15日,大阪市の駐車場で,破裂した消火器が小学4年生の男児を直撃し,一時意識不明の重体に陥った。翌16日には,福岡県行橋市で民家の納屋に置いてあった消火器が破裂し,男性が軽傷を負った。総務省消防庁によると,1999年以降,この種の消火器の事故は上述のケースを含めて12件発生し,2人が死亡した。

 破裂した消火器は加圧式と呼ぶタイプだった(図)。本体内部には,放射時の圧力源となるガス〔液化炭酸(CO2)ガスや窒素(N2)ガス〕を1M~1.5MPaの圧力で封入した加圧用ガス容器が組み込まれている。消火時にレバーを握ると同ガス容器の封板が破れ,ガスがガス導入管を通って本体内部に広がる。このときの圧力によって消火薬剤は撹拌されながら,サイホン管とホースを通ってノズルから勢いよく放出される構造になっている。

 大阪市の事故の場合,男児がこの加圧式消火器の安全栓を抜いてレバーを握った。一方,福岡県の事故の場合には,男性が消火器を廃棄するために中身を抜こうとしてレバーを操作した。つまり,両ケースとも,被害者によって加圧用ガス容器の封板が破られ,本体内部に圧力源となるガスが充満してしまったのである。

 消防庁によると,破裂した消火器はいずれも,10年以上前に設置され老朽化したもので,本体容器の「一部が腐食していた」(同庁)。そのため,圧力源となるガスが本体内部に導入されたときの内圧に耐えられずに,腐食部分から一気に破壊した。その勢いはすさまじい。例えば大阪市のケースでは,消火器の底が抜け,設置されていた場所から約10m離れた地点まで飛んだという。

 一つ間違えると,凶器となりかねない腐食した消火器。これが,我々の身近には相当数存在すると考えられる。なぜなら,消火器の生産量が年間400万本に対し,回収量はちょうど半分の同200万本と,回収がまだまだ進んでいないからだ。

〔以下,日経ものづくり2009年12月号に掲載〕

図●加圧式消火器の構造
本体内部には加圧用ガス容器があり,この封板を破るとガスが広がる。