「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 管理者の皆さん,メンバーを叱ったことがありますか? 覚えがないという方がいても不思議はありません。現代は管理者といえども,叱るという行為が非常に難しくなっているからです。

 だからといって,まさか,叱らない理由が「メンバーに嫌われたくない」というものだったとしたら,職場を正しく導く管理者として好ましくない行動だと思います。なぜなら,この叱ることが,メンバーの成長を促すマネジメント戦術に関係するからです。

 確かに,誰かを叱ることは愉快なことではありません。叱ることが好きだという管理者などいないでしょう。しかし,ここぞというときに「嫌われたくない」という理由から,叱ることを躊躇するような人は,管理者には向いていないと思います。メンバーを優秀な社員に育てていくという,管理者に課せられた最も大切な仕事をきちんと遂行できないからです。管理者も人の子,叱り慣れていない人にとっては,最初は心臓がドキドキしたり,プレッシャーを感じたりすることがあるかもしれません。しかし,それもメンバーの成長のため,また,職場を正しく運営するためです。管理者はまず,叱るべきときにはきちんと叱る勇気を持つことが大切です(図)。

〔以下,日経ものづくり2009年12月号に掲載〕

図●管理者に必要な叱り方のマネジメント
叱ることは大切だが,メンバーの心をくじかないように,管理者が満たすべき条件がある。

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産準備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成や指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社し,HY人財育成研究所を立ち上げて所長に就任。トヨタ自動車で学んだ業務の進め方や人材育成について,講演や執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」がある。心に染みる語り口で人気。