「勝つ設計」は,日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ,競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し,再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 前回までの3回にわたって「原価企画の神髄」を解説してきた。読者の中には,そこで述べたように,厳しいコスト目標を立てて厳しい管理を実践してきたし,ユーザーが満足する機能など商品企画の意図もすべて盛り込んだのに,どうもコスト面ではCompetitorに勝てないような気がする,と感じている方もいらっしゃるのではなかろうか。実際,Competitorの商品を目にすると,そちらの方が安くて利益が出ているように見えるし,販促も積極的に展開しているように感じる。「おれたちは計画通りに『良い設計』をしてきたのに,なぜこうなるんだ」と,不安を抱く。

 至極もっともである。実は,市場で本当に勝つためには,まだまだ乗り切らなければならない山があるのだ。悔しいかな,設計者が言う「良い設計」=「良いコスト」とは限らない。なぜなら,そこには造り方(ものづくりの巧拙)とコスト水準という問題が潜むからだ。ただ,これだけははっきりと言える。「悪い設計」≠「良いコスト」ということである。

〔以下,日経ものづくり2009年12月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に,いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し,同社の原価改善を推し進める。その間に,いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し,日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certifi ed Value Specialist)に認定,1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど,日本におけるVE,テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し,VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も,ものづくりの現場を回り続ける。