プリンテッド・エレクトロニクス
民生機器で実用化へ

 「世界で初めてプラスチック・エレクトロニクス工場を建設した。現在はディスプレイを製造している」。ディスプレイ関連の国際会議「SID(Society for Information Display) 2009」の基調講演で,こうブチ上げてから約半年。2010年初頭,米Plastic Logic Inc.が,電子ペーパーの駆動回路にプラスチック基板の有機TFTを利用した電子書籍「QUE」の発売を開始する。米国の最大手書店Barnes & Noble, Inc.の電子書籍ストアが早くもQUEへの対応を表明しており,電子書籍市場を席巻してもおかしくない。

『日経エレクトロニクス』2009年11月30日号より一部掲載

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第1部<総論>
まずは電子書籍と照明から
機器の差異化に今こそ生かす

印刷技術によって安価に機器を製造する「プリンテッド・エレクトロニクス」。
その製品化が,電子書籍端末や有機EL照明の分野で始まろうとしている。
他社に作れない機器を生み出す力強い手駒となる。

プリンタブルからプリンテッドへ
これまでコンセプト段階だったプリンタブル・エレクトロニクスが,ディスプレイや照明といった現実の商品に広がり始めている。プリンタブル・エレクトロニクスがプリンテッド・エレクトロニクスに変わりつつある。

 「薄い,軽い,割れにくい」──。こうした特徴を持つエレクトロニクス製品を,印刷技術によって安価に製造する動きが相次いでいる。

 米Plastic Logic Inc.が2010年初頭に発売する電子書籍端末「QUE」は,その典型例だ。QUEに搭載する米E Ink Corp.製の電子ペーパーは,約13.9型(8.5×11インチ)と大きいにもかかわらず,端末の厚さは1/3インチ(約8.5mm)以下と薄い。一見すると,レター・サイズの厚紙のようでもある。重さは雑誌以下と軽く,しかも割れにくいことから,忙しいビジネス・パーソンがカバンに入れて持ち歩くのに適している。

 こうした特徴を実現する上でカギとなったのが,プラスチック基板上に印刷で形成する有機トランジスタ(TFT)技術である。ガラス基板を使わずに電子ペーパーの駆動回路を作れるため,薄く,軽く,割れにくい電子書籍端末を実現できる。将来的にはTFT製造工程の大部分を印刷に置き換えることで,製造コストを劇的に下げることも可能だ。これまでも有機TFTで駆動する電子ペーパーの試作例はあったが,実際の製品に適用した例はほとんどなかった。

 ロール・ツー・ロールで製造するフレキシブルな有機EL照明を2010~2011年に製品化するのが,米General Electric Co.(GE社)である。「有機EL照明を普及させる上で最も重要なのが,低コスト化。それを実現するためには,ロール・ツー・ロールによる製造しかあり得ない」(同社 GE Global Research, Electronic Material Systems,Advanced Technology LeaderのAnil R. Duggal氏)と意気込む。既に試作品の製造に成功しており,長寿命化といった課題にも解決のメドを付けつつある。

『日経エレクトロニクス』2009年11月30日号より一部掲載

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進化する印刷技術
数μmオーダーのパターン形成が可能に

 電子デバイスの製造に利用される印刷技術は,パターンを形成した版を基材に転写する「有版印刷」と,版を使わずにパターンを基材に直接描画する「無版印刷」に大別できる。有版印刷には,凹版(グラビア)印刷,孔版(スクリーン)印刷,凸版(フレキソ)印刷のほか,ナノ・インプリント技術などが含まれる。無版印刷にはインクジェット技術などがある。

『日経エレクトロニクス』2009年11月30日号より一部掲載

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第2部<実現技術>
これが「オール印刷」への道
用途ごとに異なるハードル

ほぼすべての製造工程を印刷で手掛ける「オール印刷」。
これにより大きな恩恵を得られる用途が,太陽電池や有機EL照明,ディスプレイである。
実用化で先行する太陽電池。その後を,有機EL照明とディスプレイが追う。

 ロール・ツー・ロールや塗布,直接描画といった印刷技術を適用することで,薄くて軽く,フレキシブルな電子デバイスを量産する。こうした恩恵を受けられる用途の代表例が,有機太陽電池や有機EL照明,そして電子ペーパーや有機ELパネルといったディスプレイである。メーカー各社が注力しているのが,これらの電子デバイスのほとんどすべての製造工程を印刷で作る,いわゆる「オール印刷」の実現である。

 現時点で,少量ながらも,ほぼすべての製造工程を印刷で手掛け始めているのが,有機太陽電池である。2008年ごろから,英G24 Innovations Ltd.や米Konarka Technologies,Inc.など欧米のベンチャー企業が量産を開始している。

 有機太陽電池がいち早く,ほぼオール印刷での量産にこぎ着けることができた背景には,有機EL照明やディスプレイに比べて印刷技術の適用に向けた技術ハードルが低いことがある。技術ハードルが低いのは,有機太陽電池が主に電極と発電層で構成されるためである。ディスプレイと異なり,駆動用のトランジスタに代表される複雑な構造を必要としない。このため,大半の製造工程に印刷技術を適用しやすくなっている。

 太陽電池と同様に駆動用トランジスタを必要としないのが,フレキシブル有機EL照明である。やはり印刷の適用に向けた技術ハードルが相対的に低いため,ここにきて,ロール・ツー・ロールや塗布技術を利用した生産ラインの構築に向けたメーカーの動きが活発化している。早ければ2010年中にも量産が始まる方向である。

『日経エレクトロニクス』2009年11月30日号より一部掲載

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