「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 「いやあ,うちの社員はどうしようもない」「言われたことしかしないんですよ。もっと自分で考えて仕事に取り組んでくれたらいいんですけどねえ…」。私は多くの企業の管理者や経営者の方から,何度となくこうした言葉を聞かされました。人材育成に関する仕事を行うようになった今でも,仕事上の付き合いで懇談するときなどによく耳にします。

 相手の方は次のように考えたのかもしれません。同じ管理者を経験した者として,思うようにメンバーが動いてくれないという共通の悩みが分かるはず。だから,雑談の中でこうした話をすることで共感を得たい,と。

 これは珍しい話ではなく,皆さんもこうした言い方をしている管理者や経営者を見たり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。いえ,人ごとではなく,自ら社外の人にこうした発言をしている管理者の方はいませんか? もし身に覚えがあるなら,すぐにやめるべきでしょう。

 良い機会ですから,ここで一度,管理者の方は,自分自身の「マネジメント戦術」について振り返ってみることをお勧めします。まずは, 「できるメンバー」をつくり上げるためのマネジメント戦術を考えているかどうかについてです(図)。

〔以下,日経ものづくり2009年11月号に掲載〕

図●「できるメンバー」を増やすためのマネジメント戦術

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産準備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成や指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社し,HY人財育成研究所を立ち上げて所長に就任。トヨタ自動車で学んだ業務の進め方や人材育成について,講演や執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」がある。心に染みる語り口で人気。