シャープは2009年9月,「技術者にとっての30年来の夢」と称す液晶の新配向技術「UV2A」を発表した1)。30年もの間,その実現をずっと変わらず待望視され続けていた技術がある一方で,研究開発を取り巻く状況自体は,30年前と今ではガラリと変わっている。シャープで30年以上もの間,研究開発に携わり,その現場を見続けてきた太田氏に,研究開発の変化や今後の取り組みの方向性などを聞いた。(聞き手は小谷 卓也=日経エレクトロニクス)

(写真:吉田 竜司)

─30年前の研究開発と,現在の研究開発で,何が一番大きく変わりましたか。

 情報の流れです。つまり,“答え”が既にインターネット上などに流れているケースが多いという点でしょう。流れている情報を受け売りすれば,それで事足りることすらあります。

 以前は,そう簡単に答えは分かりませんでした。世界に何人かは分かる人がいたかもしれませんが,そこに聞きにいくわけにもいかない。自分で考えるしかなかった。この考えるという作業は,研究者にとってとても重要なのです。それがやりにくくなっているのが現状でしょう。むしろ,考えなければならないことを探す方が大変かもしれないほどです。

─どのメーカーもここ数年で,研究開発の対象となるテーマを大きく変えてきています。

 我々の活動の範囲を,どのように位置付けるのかが変わってきたのだと思います。かつては株主であり消費者であり従業員であり,いわゆるステークホルダーというのが分かりやすかったわけです。

 しかし,これからは,大きく言えば地球全体を活動範囲として見ていくことが欠かせません。地球全体に対して我々は何をもたらし,あるいは何を害しているのか。この観点がものすごく重要です。我々は,「環境」「エネルギー」「食料」「健康」などといった分野を,大きなターゲットとして定めています。もちろん,それを専門にやっている企業と同じことはしません。あくまでエレクトロニクス企業としての視点で,こうした分野に取り組んでいきます。

『日経エレクトロニクス』2009年11月2日号より一部掲載

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