鋳鉄の薄肉化が進んできた。かつて薄さの技術的限界は3~5mm程度とされてきたが,最近では砂型鋳造で2~2.5mm,特殊な鋳型を使うと1.5mmというレベルに達している。こうした薄肉化は,軽量化とコスト低減を高い次元で両立する。環境の時代,デフレの時代に,この技術はまさにうってつけだ。さまざまな事情から見過ごされてきた薄肉鋳造だが,採用を真剣に考える時が来た。

 2009年10月5日付の日本経済新聞1面に,「『軽』燃費,環境車並み」という見出しが躍った。ガソリン1L当たり30km以上走行できる軽自動車をダイハツ工業が2010年,スズキが2年後に投入すると伝えたものだ。

 今の軽自動車の燃費はおおよそ20~25km/L。30km/Lまで高めるというのは2~5割の大幅な改善になる。同記事によれば,両社はコストが掛かるハイブリッド化ではなく,別の手段で燃費向上を実現する。停車中にエンジンを自動停止するアイドリングストップ機構や無段変速機(CVT)といった低燃費技術を導入するとともに,軽量化を推進するというのだ。

 最近では,ハイブリッド車や電気自動車ばかりが注目を浴びているが,ガソリン車がすぐに消えてなくなるわけではない。「現実問題,電気自動車の普及にはまだ時間がかかるはず。従って,現在のガソリン車の燃費改善も必要で,軽量化要求は一層厳しくなると考えられる」〔ブレーキキャリパなど自動車部品を製造する真岡製作所(本社栃木県真岡市)〕。冒頭のダイハツやスズキの動向は,この発言を裏付けるものといえよう。

 とはいえ,自動車メーカーはこれまでに,アルミニウム合金化や樹脂化,部品点数の削減など,あの手この手で軽量化を追求してきた。軽量化を推進するといっても,事は容易ではない。加えてこのデフレの時代,それによるコスト上昇は簡単には受け入れられない。今後の軽量化は手詰まり感が漂う中で,より高い次元でコスト低減との両立を図らなければならないのだ。

 実は,それにお薦めの技術がある。鋳鉄の薄肉化だ。本稿ではこれを薄肉鋳造と呼ぶ。一般には薄肉化の技術的限界は3~5mm程度とされてきたが,最近では「形状にもよるが,2~2.5mm」(真岡製作所)というレベルに達している。無論,鋳物部品の厚さは一様ではないため,たとえ最薄部を5mmから2.5mmにしても質量が即半減するわけではない。しかし,薄肉鋳造が軽量化に大きく貢献することは間違いない。仮に,鋳物を切削加工でこのレベルまで薄肉化する手法と比べれば,軽量化効果は同等ながら,大幅な加工費の削減が可能になる。

 このように,薄肉鋳造は軽量化とコスト低減に実に有効な手段といえるが,これまでは意外に見過ごされてきた。それは,主に三つの壁があったからだ。

〔以下,日経ものづくり2009年11月号に掲載〕