一頃より落ち着いているとはいえ、石油の需給はどうなるのか、価格はどうなるのか。自動車関係者にとって大きな関心事だ。金融危機の影響も一段落したところで、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の首席エコノミスト、石井彰氏に今後を聞いた。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構 首席エコノミスト 石井彰氏

 「10年で石油がなくなる」などと言う人がいる。とんでもない。たしかに、中国やインドでは石油の需要が伸びているが、先進国では落ちている。プラスマイナスすれば、今後の需要の伸びは年率1%程度だ。1%は80万バレル/日に相当する。今、原油の余剰生産能力が700~800万バレル/日以上あるから、約10年は何もしなくても大丈夫だ。
 当分の間、枯渇の心配がないのなら価格はどうか。今、原油は1バレル70ドルしている。需給関係だけで、投機や投資の資金が入ってこない裸の実力は20ドル台だろう。50ドル分が思惑による。原油も金融商品なのである。
 原油は市場メカニズムが働きにくい商品である。「石油メジャー」などと言って民間企業が幅を利かせていた時代は過去のものになり、原油の70%は産油国の国営石油会社が掘っている。彼らは需要が伸び、原油価格が上がったからといって増産投資をすることはない。「利潤を最大にする」などという民間企業のような動機は彼らにはない。増産投資をするくらいなら、その金を国民にバラまいて人気とりをする。「政権を安定させる」ことが彼らの動機なのだから、当然だろう。となれば、「価格が上がれば供給が増えて価格が戻る」というメカニズムは働かない。

以下,『日経Automotive Technology』2009年11月号に掲載