富士重工業 スバル技術本部トランスミッション設計部トランスミッション設計第一課課長 江里口磨氏
1986年の入社以来、「ECVT」「i-CVT」「リニアトロニック」という富士重工業の3代にわたるCVT(無段変速機)開発に一貫して携わってきた。

 日本の自動車メーカーとして富士重工業が初めて自社開発したチェーン式CVT(無段変速機)「リニアトロニック」は、近年競合他社で日々進化の一途をたどる多段自動変速機(AT)や、DCT(Dual Clutch Transmission)などに対し、同社が満を持して打ち出した次世代変速機である。チェーン式CVTはドイツAudi社で採用例があるが、縦置きエンジンと4輪駆動(AWD)の組み合わせは世界で初めてだ。

世界で初めて金属ベルトCVTを量産

 今日では軽自動車からV型6気筒エンジン搭載の高級車種まで、加速の滑らかさと燃費向上を狙って、金属ベルト式CVTが当たり前のように搭載されている。しかし、その過去を振り返れば、富士重工業が1987年に発売したリッターカーの「ジャスティ」が世界で初めての金属ベルト式CVTを採用した量産市販車であった。
 積層された薄い金属帯に、独特な形の薄いコマを多数はめ込み、コマを順次押す力で動力を伝達するという、それまでほとんど知られていなかった金属ベルト式CVTが、ここに初めて人々の目に触れることになった。
 この金属ベルトはオランダのVanDoorne社が開発したもので、富士重工業はこのベルトを使ったCVTを電磁クラッチと組み合わせて「ECVT」として商品化した。その後日産自動車の「マーチ」やイタリアFiat社の車両にもECVTは採用を広げた。当時、富士重工業は自動車メーカーであると同時に、ECVTのサプライヤーでもあったのである。
 CVTを搭載したジャスティが発売される1年前の1986年に、江里口磨(スバル技術本部トランスミッション設計部トランスミッション設計第一課課長)は、富士重工業に入社した。

以下,『日経Automotive Technology』2009年11月号に掲載