車載ソフト開発で、シミュレーション技術の活用が広がっている。電動車両の増加に伴って、エンジンだけでなく駆動用モータにもHILS(Hardware in the Loop Simulation)の適用が進んでいるほか、エンジン用のHILSでも燃焼圧まで考慮に入れて、よりきめ細かい制御を可能にする試みが進んでいる。ソフト開発でシミュレーション段階から実機の段階まで、同じ環境で適合作業を可能にするツールも登場している。

 シミュレーション技術を活用して車載ソフト開発を効率化しようとする動きが加速している。その背景となっているのが燃費向上ニーズの高まりだ。自動車メーカー各社は、世界的な燃費規制の強化をにらみ、2015年ごろまでに平均燃費の20~30%向上を目指している。そのために、ガソリン車やディーゼル車の燃費をさらに向上させ、加えてハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の導入や拡充を積極的に進めていく。
 ガソリンエンジンやディーゼルエンジンで燃費を向上させるためには、これまで以上にきめ細かい燃焼の制御が必要になる。HEVではモータとエンジンを協調制御することが求められる。いずれにしても、パワートレーンを制御するソフトウエアの高度化・複雑化は避けられない。
 一方で、クルマの需要は各国の経済政策に大きく左右されるようになっている。税制優遇を受けられる車種の条件が少し変わっただけで、クルマの売れ行きは大きく変わる。車載制御ソフトは、こうした経済環境の変化に素早く対応するために、短い期間での開発が求められている。複雑化・高度化するソフトを、しかも短期間で開発するための手段として、シミュレーション技術の活用が広がっているのである。

モータHILSが広がる

 これまでも、車載ソフト開発にシミュレーション技術は活用されてきた。顕著なのは、ここ数年で車載ソフトの開発にモデルベース開発と呼ばれる手法が広がってきたこと。米Math Works社の「MATLAB/Simulink」などのツールを活用し、ソフトウエアの要求仕様を、コンピュータ上に構築した仮想的な「モデル」で表現し、ソフトウエアの実行シミュレーションによる検証と修正の繰り返しによって、開発の初期段階から完成度の高い制御ソフトウエアを開発することを目指す手法である(図)。
 モデルを開発の各工程で共有することで、部門間のコミュニケーション改善につながるほか、最近ではMAT LAB/Simulinkのモデルから、直接コードを自動生成することが可能になり、コーディング作業の工数やミスを低減できる点もメリットだ。
 一方で、ソフトウエア開発の後工程でもシミュレーション技術の活用は進んでいる。ソフトウエアのコードを制御ECUに実装した段階で、ECUの動作を車両に搭載したのに近い状況で検証できるシミュレーション装置である「HILS」の導入が広がっている。従来の試験車両を使った検証に比べて、ドライバーやテストコースの確保が必要なく、無人で24時間連続で試験できるほか、テストコースでは再現が難しいような危険度の高い条件でも検証が可能だ。

以下,『日経Automotive Technology』2009年11月号に掲載
図 モデルベース開発におけるECUの開発プロセス
「モデル」を活用してシステム(ソフト)開発を実施し、自動コード生成したコードをラピッドプロトタイピングにより評価し、ECUに実装(ターゲティング)し、ECUをHILSにより評価し、最後にテストベンチや試験車両で制御パラメータを最適化(適合)する(日本ナショナルインスツルメンツの資料を元に本誌が作成)。

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