石垣洋子は,東京都青梅市にあるベスト青梅の工場で「一人屋台」を担当するベテラン。その石垣の屋台が,女性現場スタッフ向け研修のカイゼンの対象になった。明るく元気な研修生たちに背中を押されるように,石垣は意気揚々と作業時間の削減に取り組む。が,ある時,一つの不安が石垣の心に芽生えた。

石垣洋子 ドアの蝶番や錠前などを研究・開発・製造するベスト青梅で,組み立て・梱包を担当する。石垣はカイゼンされる側として,毅きぜん然とした態度で研修生たちのカイゼン活動に疑問を投げ掛けた。

「では,これから作業時間を測定します。よーい,スタート!」

 2009年7月初旬のある日の午後,東京都青梅市にあるベスト青梅の工場には,女性たちの明るい声が響き渡っていた。女性たちは,ムダとりコンサルティングのPEC産業教育センターが提供する,女性現場スタッフ向け研修を受講する研修生たち。日本各地のあらゆる工場から,カイゼンリーダーとなるべく送り込まれた精鋭である。

「……10秒……20秒……」

 この日は,10年前から同センターの指導を受けている同社の工場を舞台に,研修生たちによるカイゼン実習が行われていた。タイムキーパー役の研修生が秒数を読み上げる間,石垣洋子は,緊張しながらも慣れた手つきで部品を半組立品にし,梱包していく。石垣は,一つの作業台で複数の工程を一人で実施する「一人屋台」の担当者だ。

「……70秒…2!」

 タイムキーパーが72秒まで数えた時,石垣が作業をやめる。72秒というのは,この組み立て・梱包の工程のサイクルタイムで,1日の稼働時間を1日の生産数で除して算出した数字だ。研修生たちは,このサイクルタイムの中で石垣がどんな作業をしているのかを事細かに記録していた。

〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕