「勝つ設計」は,日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。ただ安さばかりを求めて技術を流出し,競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し,再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 前回は,原価企画の「商品戦略」「販売戦略」「製品構想」「生産構想」を解説した。今回は次のステージ「各種目標の割り付け」について(図)。

 企画書ができたら,全体の大まかな予算を割り付ける(予算の詳細は,その後で)。それを基に,どのような構造のものを,どのように,どこで造るのかといった構想をまとめていく。ニーズに応じて,製品の構造や材質,工法などのイメージを作り上げていくのである。

 実は,この順番とは逆に,構想を作ってから予算を割り振るという進め方もある。この方が,発想は豊かになるものの,コストの縛りがないためにとんでもない構想になってしまう恐れがある。

 予算が先か,構想が先か。鶏と卵のようなもので,予算が絶対に先とか構想が絶対に先とかは,必ずしもいい切れないところがある。ただ,少なくともいえるのは,従来の構造の延長で構想を作ると,コスト水準も従来と同等になるということだ。

 実際,私は,こうしたケースを幾度となく目にしてきた。そしてそこでは,競争力のあるコストや斬新なコストに関する提案をなかなか受け入れることができない。こうしたことを踏まえると,全体の予算を勘案しながら構想を立てていく方が望ましいといえそうだ。

〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

図●原価企画のプロセス
今回は,造り込み段階の「各種目標の割り付け」について解説する。

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に,いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し,同社の原価改善を推し進める。その間に,いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し,日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certified Value Specialist)に認定,1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど,日本におけるVE,テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し,VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も,ものづくりの現場を回り続ける。