「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 「早く景気が良くなってウチの業績が回復しないかなあ」「気前のいいお客さんでも見つかって大口の受注が来ないかな」…。誰ですか,そんなのんきなことを言っているのは? 冗談ならともかく,これが管理者を務める人の「本心からの言葉」だったら,聞き逃すことはできません。職場のメンバーを導くリーダーが他人の力や外部環境の好転に期待するだけでは,管理者失格です。

 どれほど大きな企業であっても,会社は一つひとつの職場の集合体。各職場が前向きに進んでいかなければ,逆境に打ち勝つことなどできません。不況克服は,それぞれの職場の運営を任されたリーダーの手腕に大きくかかっているのです。

対立する部署間で「社内留学」

 前回,リーダーに求められる資質について,二つ紹介しました。第1の資質として「プロジェクトはリーダー自らが強い信念と情熱をメンバーに示さなければ成功しないことを理解していること」,第2の資質として「プロジェクトを実行する上での動機付けを行い,メンバーをやる気にさせる仕掛けが必要であることをきちんと理解していること」──です。ここで理解を深めるために,後者について一つの事例をご紹介しましょう。

〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産設備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成や指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社し,HY人財育成研究所を立ち上げて所長に就任。トヨタ自動車で学んだ業務の進め方や人材育成について,講演や執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」がある。心に染みる語り口で人気。