雑誌 特集

日本の鉄道技術

2009/09/30 10:40
 

急峻な地形に,多数の人々が住む日本の国土。英国から技術がもたらされて以来約140年間,鉄道は独特の進化を遂げてきた。大都市では,今や大量の電車が数分ごとに遅れなく発着する光景が,当たり前のものとなっている。空前の電車王国を実現するために日本が選んだ道が,電車の軽量化と省エネルギ化だった。これが今,海外に見られない貴重な財産になろうとしている。世界中で鉄道が見直される理由が,その環境性能にあるからだ。日本が鉄道技術で海外に貢献できるチャンスは,今をおいてほかにはない。(木崎健太郎)

いざ海外へ:100年に一度のチャンス

 都市と都市を200km/h以上のスピードで結ぶ高速旅客鉄道の建設プロジェクトが,世界中で進行している(図1)。

 旅客鉄道がほとんど衰退したと思われていた米国でさえ,高速鉄道の計画が11路線もある。特にカリフォルニア州は,資金調達のために100億米ドル近い州債の発行を2008年11月の住民投票で可決,がぜん「やる気」を見せている。その後,2009年2月,連邦政府が高速鉄道と都市間鉄道の整備に80億米ドルを支出することが決まり(米国再生・再投資法),さらにBarack Obama(バラク・オバマ)大統領も,高速鉄道について予算措置を強化すると発表した。こうした資金を使えるとなれば,計画はますます実現に近づく。

 ブラジルでは間もなく,リオデジャネイロとカンピーナスをサンパウロ経由でつなぐ高速鉄道について,入札が行われるもよう。ベトナムでもハノイとホーチミンをつなぐ壮大な構想がある。このベトナムのプロジェクトについては政府レベルで日本に協力要請があり,事業化に向けた調査を国際協力機構(JICA)が実施中だ。ほかにも,中国は世界最大の高速鉄道網を整備する計画を持ち,北京~天津間では350km/hでの運転を2008年に既に開始しているなど,高速鉄道のプロジェクトが全世界を覆いつつある。

 先進的な鉄道技術を持つ日本にとっては,世界で稼げる大きなチャンスだ。2009年2月,日立製作所が英国の都市間鉄道向けに,1400両もの大量受注につながる優先交渉権を獲得したのは,象徴的な出来事だった。
〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

図1●世界の高速鉄道プロジェクト
これ以外にも,インドネシア,アラブ首長国連邦などで構想があるという。出所:国土交通省
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事例に学ぶ:重要保安部品に絶対の自信

 狭い日本では,鉄道は人家の近くを走らねばならない。このことが,日本の鉄道の低騒音性を大きく進歩させた。地盤もそれほど強くないので軌道に無理な負荷はかけられず,車両の軽量化が進んだ。軽量であることは騒音の少なさにつながるだけでなく,省エネルギという特徴ももたらした。こうして,pp.42-45の「いざ海外へ」でも述べたように,「軽量・省エネ・低騒音」の3点セットから成る独特の鉄道体系が出来上がっていった(図2)。例えば新幹線車両の速度向上を考える際も,あくまで沿線の静かさを前提としなければならない。

 安全性を損なうことなく,この3点セットのレベルを高めていくという過程で,日本の鉄道車両メーカーや鉄道用機器メーカーは世界に類を見ない技術を備えるようになっていった。今,世界が日狭重要保安部品に絶対の自信車輪,台車,インバータでリード事例に学ぶ本の鉄道技術に注目するのは,まさにこうした強みによって生み出される製品が欲しくてたまらないからである。
〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

図2●日本の鉄道技術の特徴
日本国内の事情に合わせて独自に発達してきたため,特に軽量な車両,省エネルギ,低騒音などに強みがある。
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弱点の克服:LRT,国際規格,EPCがカギ

 強い部分を持つ半面,日本が苦手とする鉄道技術も当然ながらある。その中には,今後世界で勝負していく上で,ぜひ強化しておくべき点も多い。ここでは,そのうち三つの課題を取り上げて,現状と将来を見ていきたい。

 第一の課題は,都市内の交通ネットワークの開発である。例えば欧州では,従来の路面電車を発展させ,近郊にもアクセス可能なLRT(Light Rail Transit)として整備を進めている。長いエスカレータや階段などを上り下りしなくてもすぐに乗降できるため,旅客の利便性は大幅に向上する。一方,日本では多くの都市で,路面電車を廃止して地下鉄にしてしまった。今後LRTの需要は世界的に増えると考えられるから,国内でも技術を開発・蓄積する必要がある。

 第二の課題は,国際規格への対応だ。海外の政府系機関に売り込むには,国際規格に適合していることが必須条件。日本製品が締め出されないよう,国際規格の動きに常に目を見張っていなければならない。しかしこれまでの実態は,関係する企業や業界団体が,何か起こってからその都度動くというものだった。

 第三の課題が,システム・インテグレーション能力の強化。pp.46-54の「事例に学ぶ」で見てきた通り,部品や車両では多くの強みを持つ日本だが,システム・インテグレーションではあまり強くないといわれる。さまざまな構成要素を調達・再構成し,現地で組み立てて稼働させる能力が必要になる。

 遅れているといわれる日本のLRTの中で,予想を裏切ったといってもよいくらいの劇的な成功を収めたのが富山市の「ポートラム」〔富山ライトレール(本社富山市)〕だ(図3)。ポートラムは,直流電化区間だった富山港線をJR西日本から引き継いでリニューアルし,富山駅に近い部分を一部変更して路面電車とした路線(単線)。富山港線時代には日中の運転間隔が2時間近く開いていたのを15分間隔にしたり,駅(電停)を600mごとに設けたりといった対策が奏功し,利用者数はリニューアル前の2.2倍に増えた。これは,目標の1.4倍に当たる。
〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

図3●都市内ネットワークの整備
都市内の交通ネットワークを整備し,簡単な乗り換えでさまざまな所へ行けるようにすることは,日本ではこれからの課題。だが,新たな試みは既に始まっている。写真は,ホームを出てすぐバスに乗り換えられる「ポートラム」(富山ライトレール)の岩瀬浜駅。

識者の提言:今求められる「アカウンタビリティー」

佐藤芳彦●サトーレイルウェイリサーチ 社長

 日本の鉄道は世界的に見て,何が優れているのだろうか。新幹線や都市鉄道(通勤電車)は,確かにハードとソフトの両面でトップクラスだろう。サービスの良さや安全性,信頼性,省エネ性,定時運転,清潔さが日本独自の文化と相まって高く評価されている。しかし,すべてに優れているわけではない。例えば貨物輸送や地方交通,LRT(Light Rail Transit)については,残念ながら世界のレベルから程遠い。

 どこがどのように優れているか,どんな考え方で実現しているかは,日本人自身もよく分かっていないところがある。自動車や電子機器における優秀さは既に世界的に認められているが,鉄道に関しては「日本の技術は優秀」「これまで事故がなかったから安全」と単に言うだけでは,海外の顧客を納得させ,売り込むことはできない。鉄道技術の発達の背景,システム・インテグレーションの考え方,技術および安全のフィロソフィー,運行と保守の地域性などについて説明し,相手国の事情にどう適合しているかの説明責任「アカウンタビリティー」が求められる。

 日本の鉄道技術には優れた点が多いのに,説明が下手で損をしているように思えてならない。欧州製品と価格で拮抗した場合は,なおさら合理的説明が大事になる。欧州勢は多国間のビジネスで常にアカウンタビリティーを要求されているので,説明にそつがない。
〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕

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